口先マーケターには脅威?「生活定点」公開。
(2012年9月28日)

カテゴリ:マーケティング
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196-hill.png博報堂生活総合研究所の「生活定点」のデータが、2012年の最新版を含めて過去20年分が一気に無償で公開された。とりあえず、話題になっているようでネットでも気になる人は多いようだし、クライアントからも耳にする。
このデータベースは、国内のマーケティングの仕事をする上ではきわめて優れたデータなのだが、意外と使われていないような気もする。ただし、このデータは本当に貴重で実用的だ。今回オープンになったことで、現場の仕事は結構変わるかもしれない。
僕は2004年に退社して以降、このデータは自分で買っている。内容に比べればまったく高くない。つまり、もともとオープンデータなのだ。しかし、2年おきのデータで1回のCD-ROMには過去5回分、つまり10年分のデータしかない。
その辺が不便で、たまに自分で編集加工していたのだけれど、今回は20年分が通観できる。新生児が成人になるまでの20年だから、世代交代に関わる構造変化も読みとれるだろうし、将来予測も見えやすくなった。10年ではトレンドを見るくらいしかできないので、これもありがたい。
僕自身、この調査はかなり自分のビジネスに役立ててきた。それは退職して独立以降の話である。全くのフリーランスがマーケティング・コンサルティングをすると、「自前のデータ」はない。では、オリジナルの提案ができないか?というとまったくそんなことはない。
僕はクライアントから相談を受けると、日本の政府統計、シンクタンクが公開データを組み合わせるだけで、仮説を作って持っていく。その際に「生活定点」の説得力は高い。
実際に、こうしたデータを組み合わせた分析で、広告会社が作った企画の前提をひっくり返すことも十分に可能であることもよく分かった。


たとえば、このグラフ。出典は今回公開された「生活定点」のものだ。質問内容は「健康に気をつけた生活をしている」と答えた人の割合である。
世の中では「健康志向が強まっている」というが、そうではない。劇的に落ちているわけではないが、20年で見ると微減だ。
では、どうして「健康ブーム」のように思うだろうか。それは、生活定点の他の項目のデータや、性・年齢別の詳細を丹念に分析すれば、もっと劇的な数値も見えてくる。同じ「健康」でも、多方面からいろんな質問をしているのが、生活定点のユニークな所である。その結果、社会の実情を立体的に把握できるのだ。
そして、とりあえずの「健康ブーム」をロクに分析しないで、消えていった製品・サービスが多いことも理解できるだろう。
これ以上、細かい見方については書かない。しかし、多くのマーケターがこのデータを見られるようになると、仕事の進め方は変わる。
安易に「現代は健康志向です」とか書いて提案してきた企画書に対しては、「何、言ってるんだ。このデータ知らんのか」と門前払いをくらわすこともできる。
まあ、どこまで事業主が勉強するかに関わっていると思うが、広告会社も安易な「トレンド知ったかぶり」はもう通用しない。
という意味で、このデータ公開はいろいろインパクトがあるかもしれない。そして上手に使うと、現場は助かるだろう。大きな潮流についてはあらかじめ合意できるのだ。後は、プロダクトの開発や、プロモーションなどのアイデアに、集中できる。もちろんリサーチコストも効率化される。
ただし、このデータは1500行近くある。ある程度仮説を立てて複数の質問を分析しないと、オリジナリティのある発見は難しいだろう。単に、年度間差の大きさに注目しただけでは「そりゃそうだよな」くらいの感想しかでないのではないか。
国内のマーケティングに取り組んでいるなら、週末返上して骨までしゃぶり尽くすことをお勧めする。政府統計データと組み合わせるのもいいかもしれない。