後ろ向きのまま前進~昭和が漂う「サラメシ」の空気感。
(2015年12月7日)

カテゴリ:メディアとか
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会社を辞めて10年以上が経つが、夜に仕事はしないし、平日の外食は週2回程度なので、結構家で食事をしている。ところがゴールデンタイムのプログラムは、殆ど見る気がしない。結局、録画したものを見ることになるのだが民放だと「タモリ倶楽部」と「YOUは何しに日本へ?」くらいで、あとはNHKになる。

BS世界のドキュメンタリーなどは結構見ごたえがあるのだが、食事時に「サイゴン陥落」とか「独裁者スターリン」というのもそうそう気が進まないので、「サラメシ」「妄想ニホン料理」「世界入りにくい居酒屋」「キッチンが走る」など、気がつくと「NHK×食」がやたらと多い。
NHKが「食」が得意というより、民放だと「店紹介」以外の企画が殆ど出て来ないというわけで、それもどうかと思うけど、中でも「サラメシ」っていろいろと今の世の中を映し出している気がする。

「サラリーマンのヒルメシ」がテーマで、いろんな職場を取材する。ホテルや空港などちょっと特殊な職場の裏側もあれば、レタス農家や町工場など、いわゆるサラリーマンとは少し異なるときもあるが、それはそれで面白い。

典型的な外回り営業に密着することもあれば、若い企業で「月1回は持ち寄りランチ」みたいな職場の紹介もある。

でも、この番組、前向きのようでいて、どこか後ろ向きだ。

もちろん、「ランチでパワー」がよくわかるし、出てくる人は元気で職場は明るい。ただし、実際の職場がこんなに楽しそうで元気かというと、実際はそんなところばかりではないだろう。
「いま」を取材しているようだけど、映し出される空気感はどこか昭和だ。

現実のサラリーマンのランチは、もっと無機的で慌ただしくなっている。昼時にオフィス街にいると、そう感じる。都心部ではコンビニに行列をして、サッサと済ませたい人も多い。ロードサイドの牛丼屋は殆どが無言で飯をかきこんでいる。

もちろん、この番組に出てくるように毎日おいしそうな弁当を持参する人や、仲間と一緒にお気に入りの店でランチを楽しむ人もいるだろう。ただ、この20年くらいの間に、「幸せなランチ」はじわじわと減っていると思う。それは数字でも見えてくる。

新生銀行のレポートでは1回あたりの単価は1992年の746円から下降を続けて2010年には507円になった。ここ3年ほどは上昇していて601円となったが、結構厳しいのだ。

弁当持参も増えているようだけど、それには時間的な余裕がいる。ある程度、時か金に恵まれないと、ランチを楽しむのもままならないわけだが、この番組からはそんな現実は見えてこない。

そして、「ちょっと過去のような現在」を映しているから、ついつい惹かれるんだと思う。ただ、それはサラメシに限ったことではない。「下町ロケット」などもそんなところがある。昭和のスパイスは、結構効くのだ。

正月などによくある「未来を見せる」番組よりも、「ちょっと前」を感じさせるコンテンツの方が響く。後ろ向きのまま、前進、というのがいまの日本人のインサイトなのだろう。