【音の話】柔らかな鋼、シカゴ交響楽団。
(2016年1月3日)

カテゴリ:見聞きした
タグ:

シカゴが来る。と言っても、シカゴのオーケストラだ。シカゴ響で、つまりCSOだ。クラシック音楽好きの中には思い入れのある人も多いだろう。

本だけではなくて、音楽についても今年は書いていこうかと思うわけで、正月3日目はそういうお話。

ベルリン、ウィーンと並んで「3大オケ」という惹句を考えた人もいた。「世界3大スープ」と同じで、これを言い出すのは大体3番目の関係者だ。別にシカゴ響が3番目かはともかく、欧州の名門オケと比して売り出そうとしたレコード会社の思惑もあっただろう。

というわけで、シカゴ響についての個人的な思い出を書いておきたい。

ショルティの演奏は1986年に上野で聴いた。ハフナーとマーラーの5番だったが、心底驚いた。トランペットのハーセスと、ホルンのクレヴェンジャー。終演後に立って挨拶する2人を見た時に、特に好きではないが「全盛期の王と長嶋」という連想をした。

あまりによかったので、翌週のバレンボイムのチケットをロビーで買った。残席があり、曲はワーグナーの「指環」からの抜粋などだった。

ところが、これが全く違うオーケストラだった。バレンボイムは金管を抑える。左手の掌を、管楽器に向けて弦楽器にうねうねとしたタクトを振る。シカゴ響という最高のエンジンにリミッターをかけていたような感じだ。

バレンボイムはベルリン国立歌劇場で「指環」を演奏した来日公演などが本当に良かったと思うが、どうもシンフォニーは辛気臭くなることがある。その後、2005年に「シルヴィ・ギエム 最後の“ボレロ”」という企画でCSOと来日したのだが、ボレロのトロンボーンがこけるは、「春の祭典」もグシャグシャで、まったく緊張感のない演奏だった。

この頃は、シカゴ響にとっても世代交代などで、過渡期だったんだろう。

2009年にはハイティンクと来日して時には「英雄の生涯」などを聴いた。全体にバランスのとれた印象で、弦楽器が強くしなやかだったことが印象的だ。その後ムーティを音楽監督に迎えたようだが、かつてのようにやたらとディスクが出るわけでもなく、今年の来日となる。「運命」と「巨人」という、「メインディッシュ二皿」なので、シェフの剛腕が待ち遠しい。

シカゴ響の録音はもちろん数々あるが、ショルティの来日時の演奏は映像で残っている。ただし、これは入手しにくいようだ。CDは山ほどあるので、どれを取り上げるか?というのは相当難しいんだけど、意外な感じでいうと僕はブルックナーがいいと思う。「ブルックナーの音楽に過剰な思い入れをしている人たちは嫌いだが、ブルックナーは好き」という人にはお勧めできる。

バレンボイムは、来日時の演奏の印象はともかくシューマンの交響曲全集はよく聴く。クレベンジャー以下が大活躍の“コンチェルトシュテュック”も入っていたが、いまは売ってないようだ。

しかし、シカゴ響の録音でもっとも好きなのはアバドが振ったマーラーの交響曲だ。全集こそないが、どれも素晴らしい。ショルティが振った時の硬質なイメージはロンドンレーベルの録音の癖もあったのかもしれないが、グラモフォンの音はバランスがよく、かつシカゴ響全盛も美点も残っている。

そうそう。ジュリーニの録音も、ユニークで「新世界」「グレイト」あたりは「しなやかな鋼」という感じだ。最近のディスクは、すぐに入手難になりやすいがいろいろと探してみると楽しいと思う。

シカゴ響のサウンドは、硬質なイメージを持つ人も多いと思うし、たしかにそういう面もある。ただ、僕の中では「柔らかな鋼」といった感じで、近代オケのひとつの頂点だと思っている。