もうちょっと、世界史の本について。
(2016年3月22日)

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41EjxS4V4xL3日にわたる世界史本あれこれだが、まとめの話と、少し昔の本について。

いろいろとあげてきたが、この15年ほどの「世界史本」は、ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』のインパクトが起点になっていると思う。

そして、いろいろあげた中で「どれから読むか?」という話になる。これだけの量のモノを片っ端から読むくらいなら、もう少しバランスよく、いろんな本を読んだ方がいいだろうし、ハードカーバーで高価な本も多い。

そうなると、既に文庫本になっていて、ある程度とっつきやすいモノから行くというのもありだろう。

つまり『銃・病原菌・鉄』『繁栄』『「豊かさ」の誕生』あたりだろうか。『国家はなぜ衰退するのか』もいいのだが、訳がこなれていないこともあって、いきなりはきついかもしれない。

また、図書館で借りてようすを伺ってから、順に取り組むのもありだろう。ただし、忙しい人にとって、借り出し期間中の読了は難しいだろうし、読むなら購入して鉛筆なりポストイットなり、自分のやり方で読み込むことをすすめたい。

また、歴史の本はすべての事象を網羅的に扱えるわけではないし、それぞれの著者の知識にも限界がある。したがって、どんな大作にもケチをつけるのは簡単だ。

「○○についての記述が足りない」「××についての考察が浅い」などというレビューを書くことは、実は誰にもできるのだ。今回は一冊ごとに詳細な紹介をしてないので、ネットのレビューなどを見ることもあるだろうが、その辺りを踏まえた上で取り組むといいと思う。

また、今回紹介した本は、すべて英米系の研究者によるものだ。ここまでガッチリと腰の据えた研究は日本では難しいのかもしれない。

ただし、日本人が「歴史の仕組み」に取り組んだユニークな本も当然ある。まずは、この辺りを読んでから、いろいろと広げていくのもいいだろう。

一つは、『肉食の思想』(中公新書)だ。著者の鯖田豊之氏(1926~2001)は京都府立大学の教授で、この本は1966年の刊行だが、そのユニークで説得力410PSNYFTMLのある発想には驚かされる。食生活の様式が、欧州文化を決定づけたという視点で、文明のあり方を分析していく。

それは、一本での梃子で大きな岩を動かしていくような手法なので、細部にわたってはいろいろ気になるところが出てくることもたしかだ。

ただ「パンから生まれた社会意識」などで書かれたことは、後の研究でも同様の議論がおこなわれることもあり、先見性もある優れた一冊だと思う。

そして、同書でも言及される古典中の古典が和辻哲郎の『風土』だ。世界の風土を「モンスーン・砂漠・牧場」の3つの類型から分析をすすめる。もっとも、この本にも主観が強いなと思われる記述はあり、たとえば「日光の強まるに従って人間の気質は漸次興奮的・感激的になって行く」などと読むと、直感としてはわかるが、いろいろ気になってしまうことはたしかだ。

しかし、この本は昭和10年、つまり今から80年前の刊行であることを考えると、明治生まれの著者の深い洞察に感嘆するし、改めて近年の英米の著作を読んだ後で再読すると、本質をついていることもわかる。これは、鯖田氏の著作を読んでも感じる。

知識の進歩、ということについて改めて考えるきっかけにもなる一冊だ。