2016年04月アーカイブ

東京大学の入学式の総長式辞で「新聞を読もう」と言ったというニュースを見て、ウェブサイトに掲載された式辞を見た。なんか唐突な感じもしたのだが、読んでみると必ずしもそういうわけでもないように感じた。以下””内は引用。

  • まず、この式辞では「新聞を読もう」とは言ってない。“ところで、皆さんは毎日、新聞を読みますか? 新聞よりもインターネットやテレビでニュースに触れることが多いのではないでしょうか。”と問いかけている
  • そして、“ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身に着けるべきです。”と言い、“東京大学ではオンラインで新聞記事や学術情報を検索し閲覧できるサービスを学生の皆さんに提供しています。”と続ける。
  • 新聞を読もう、というよりもニュースの表面をなぞるのではなく、その背景などについてきちんと読み込むということだろう。ネットでも記事が配信されているが、その内容をちゃんと読んでいない人は社会人でも多い。
  • 僕もネットニュース、特にアプリの問題は学生に指摘している。自分の関心が高いもの配信されるような設定だと「情報偏食」が起きる。このことについては、昨年あたりから学生も理解して、特に就活前くらいから気にするようになってきた。
  • ただし新聞はカネがかかる。殊に学生への仕送りが減少を続ける中では、相当大変だし、以前から一人暮らしの学生は新聞をとっている人は少なかった。図書館など大学の施設を利用することを薦める先生は多いし、総長もその辺を意識しているのかもしれない。
  • そして、この式辞はさらにこう続く。“皆さんにさらにおすすめしたいことがあります。それは、海外メディアの報道にも目を通すことです。日本のメディアの報道との違いに注目してみてください。”
  • こうなると、日本で新聞を読む価値はなんなんだろうか?という話になる。紙の新聞をとるよりも、大学のオンラインを最大活用することを薦めているような感じだ。だったら「新聞だけでは何もわからない」と言った方がいいようにも思う。
  • ちなみに、今朝のNHK・BS-1の世界のニュースでは、中国農村の「留守児童」の実態をレポートしていたが、これが英国BBCからの配信。隣国のルポがロンドン経由でニュースになって見ることができる。
  • 一方で日本で報じられる中国人の話は「爆買い」についてのトピックが目立ち、あるいは南沙諸島における軍備関連の話が多い。あるいは経済動向など。たしかに日本のメディアだけを見ていれば、それが新聞でも十分に危うい。
  • 大学でも、学生の情報接触についての危機感が強まっていることは近年の学長式辞でも感じられる。信州大学の山沢清人氏は昨年の入学式で「スマホ漬け」に警告したし、東大教養学部の卒業式の石井洋二郎氏の式辞も「情報の真偽」について語った傑作だったと思う。
  • それに比べると、入学式と卒業式の対象者の違いはあるとはいえ、この東大入学式の式辞は、キレがないし「新聞読もう」と報じられても仕方ないのかなと。京大入学式の式辞も迫力があったし、こうしてネットで全文掲載になると学長の人となりが見えてくる気もする。