【梅雨だから本】江戸落語の後日譚を妄想してみる面白さ「えんま寄席」
(2016年6月9日)

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車浮代81Yzb8tVY+L 『えんま寄席 江戸落語外伝』 (実業之日本社)

名作の後日譚を勝手に妄想するのはおもしろい。小説やコミックなど、人気作ほど妄想が広がる。さらに、空想歴史というのも一つのカテゴリーだ。

この「えんま寄席」は、その素材を落語に求めている。たしかに、これはちょっとした盲点だったかもしれない。

落語の噺には長短あれども、いわばほとんどが「短編」である。もっとも、数年単位の時間軸が流れるものもあるが、その場合も間は端折って進んでいく。当然のようにうまくまとまっていて、それらが「古典」として多くの噺家に何度となく演じられ、聴く方も飽くことなく笑っている。

ところが、「うまくまとまっている」からこそ、ツッコミを入れたくなる部分があることもたしかだ。登場人物の多くは善人であり、道に外れていてもどこか憎めない。もちろん圓朝の噺のように凄惨なものもあるけれど、ある種の予定調和がある。

春風亭昇太などは、「愛宕山」を後日譚付きで演じることがあるけれど、それはそれで相当に面白い。

この「えんま寄席」は、名作落語の「その後」を展開させていくのが基本的な構成だ。題材になるのは「芝浜」「子別れ」「火事息子」「明烏」だが、バラバラというわけではない。どこかの話に出てくる「あの人」が、ちらりちらりと現れてきたりする。

バラバラではなく、1つの世界観を構成しているのだ。

少し登場人物が交錯して、あわてて「相関図」を作りたくなるが、アナザー・ストーリーとしてはとても楽しめる。

何より、古典落語をこうやっていじってみようという発想が素晴らしい。落語の噺は、ちょっと引いてみると「出来過ぎている」ところもあるので、こうした遊びにはうってつけなのだろう。

この小説、先に書いた落語を知っている方がより楽しめると思う。ただ、江戸を舞台にした連作ドラマとしてもスーッと読める。

なにより、説教臭くなり過ぎないのがいい。また、本作にしても「さすが女性だな」と思わせるところがある。古典落語は男が中心なので、彼らをイキイキさせるには女性視線の方がいいと思うのだ。

著者の車浮代さんは「蔦重の教え」も愉しかったし、江戸を題材に書いていく作家の中ではとても楽しみな人だし、さらにいろいろな切り口で書かれていくのではないだろうか。