2016年07月アーカイブ

2016_0724SP&0725B_sai-nyuko東京都交響楽団公演「都響スペシャル」

指揮:アラン・ギルバート

2016年7月24日 14:00

モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K.183(173dB)
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

 

さまざまなクラシックの曲の中で、「この一瞬がゾクゾクする」というのは、人によって違うと思うんだけど、自分の中でもっとも好きなところの1つが、マーラーの5番のフィナーレに入るところだろうか。

ホルンの動機からファゴット、そしてクラリネット、やがて弦楽器が厚い音を奏でるまでの独特の解放感がたまらない。

霧の中から、黄金色の光が差してくるような一瞬だ。

ただこの日の解説にも「勝利」という言葉が使われているが、どうもそれには違和感がある。

ベートーヴェンのような凝縮感のあるフィナーレとは対極で、さまざまなモチーフが明滅するように現れてくる。何色もの糸が気ままに放り出されていくようで、気がつくと絶妙に編みあがっていくような構成とオーケストレーションも素晴らしい。

今日も、その一瞬を想像しながらホールに行ったが、驚くほどにいい演奏だった。

この日のギルバートの音作りは、弦を基盤にしてキッチリとアンサンブルを積み重ねていくアプローチだった。大向こうをうならす「爆演系」ではないけれど、気がつくとフィナーレの最後では相当の盛り上がりになっている。

オーケストラの主体性を引き出していく音作りで、長いフレーズでゆったり歌わせる。管楽器の能力をきちんと引き出すから、トランペットやホルンも相当の水準だった。単にうまいのではなく、歌が聴こえてくる。

直前に予定が空いてフラリと行ったのだけど、それでこういう水準の演奏が普通に聴けるというのは、東京の楽壇って層が厚くって質が高いんだなと改めて思った。

一曲目のモーツアルトの集中力で、いい演奏会になりそうな予感があったけど、アラン・ギルバートはニューヨークフィルも円満退任のようだし、都響が定期的に演奏できればなあと妄想する。彼のように、音を積み上げるタイプの指揮者は日本のオーケストラの潜在能力を引き出すと思うのだ。

夏休みでコンサートが少なくなる前の、いい出会いだった。