2016年08月アーカイブ

81jPXr5z5cL今夏に読んで結構楽しめのがこの一冊。

ロシア革命の時の、英国情報部を巡る歴史ノンフィクションなのだけれど、当時の緊迫感がジワジワ伝わってくるだけでなく、現在にいたる「ややこしさ」のルーツもまた見えてくる。

英国の秘密情報部は、MI6あるいはSISなどの略称でも知られる。フィクションでも有名人を輩出していて、もっとも知られるのは007のジェームス・ボンド。その次が、ジャック・バンコランだろう。(多分)

英国は「七つの海を支配した」歴史を持ち、米国と相まって英語の影響力も強い。グローバルな大国だが、どこか「世界を背負ってる」感じがする。007は英国を守るというより、世界を助けるという感じだし、サンダーバードも「国際救助隊」だ。

その理由が、また何となくわかってくるのがこの本の面白いところだ。

組織の発足は、第一次世界大戦がきっかけになっている。ただし、この時代は共産主義の風、どころか嵐が吹き荒れて大戦末期にはロシア革命が起きた。

情報部の活動は、勢いレーニンのソ連をマークすることになる。と書きたいところだが、ソ連の成立前にまずは「ボルシェビキ」が英国の敵となったわけだ。そういえば、もう、ボルシェビキとか、言葉自体が懐かしい。コルホーズとかソホーズとか、昔の社会科はロシア語を暗記させていたんだよな。

さて、この本は基本的には英国側の視点で書かれる。そして、英国がなぜレーニンを警戒していたのか?それは、レーニンが「世界革命」を唱えていたことも理由だが、もう一つ重要な理由があった。

インドである。これは、不勉強だったなぁと思った。インドの独立勢力に呼応するようにして、レーニン率いるボルシェビキは、その活動を支援しようとした。そうなると、諜報戦の舞台は中央アジアとなり、アフガニスタンあらタジキスタン辺りが鍵を握ることになる。

前半の舞台は、ペテルブルクからモスクワへの潜入が中心だが、後半はユーラシアのまん真ん中となる。そして通信手段が未発達な時代だからこそ「人」を巡る話がとてもスリリングになる。

そう思うと、007がエキゾチックな舞台で切った張ったをやっているのもよくわかる。インドとレーニンの握手は、当時の英国にとっては悪夢だし、あの辺りは英国情報部にとっては大切な庭なのである。現地にとっては、たまったものではないが。

そして、ソ連は79年にアフガニスタンに侵攻し、モスクワオリンピックは大騒動になって、そこから10年ほどで国が崩壊した。その後のアフガニスタンは安定を欠き、英国は深く関与していることの理由も、この時代に遡るわけだ。

ちなみに、この頃のチャーチルは、どうも今一つ判断能力が良くないように思えるんだけど、彼はいつ頃「化けた」のだろうか。それとも、そもそもそういう人だったのか。そのあたりも、また気になってくる。