うまくて、深い。ティーレマンとドレスデンの「アルプス交響曲」
(2016年11月23日)

カテゴリ:見聞きした

img_2124ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN オーケストラ・プログラム

シュターツカペレ・ドレスデン 演奏会

指揮:クリスティアン・ティーレマン

ピアノ:キット・アームストロング

2016年11月22日 19:00 サントリーホール 大ホール

 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op. 19

(アンコール)J.S.バッハ :パルティータ第1番 変ロ長調 BWV825 メヌエットⅠ

 R.シュトラウス:アルプス交響曲 op. 64

 

ドレスデンのオーケストラというと、昔は「いぶし銀」というイメージがあった。これは、東ドイツ時代にレコード会社あたりが作った、いかにもそれらしい惹句だったかもしれない。いまも来日するブロムシュテッとが振っていたと思う。

ホルンにはペーター・ダムという名手がいて、とても柔らかい音色だった。そういうこともあって、どちらかというと職人肌の渋いオーケストラというイメージがあったけれど、2007年に東京でマーラーの「復活」を聴いてイメージが変わった。美しく彫りの深い弦と、ピシッと決まる管楽器群。音色は明るくしなやかで、トップクラスのオーケストラだと感じた。

今夜はまず、ベートーヴェン。最初の音から、「ズゥン」という余韻がある。付点音符が減衰するときの心地よさが、独特だ。ピアノがは代役のキット・アームストロングだったが、軽やかながらも聞かせどころはしっかり弾く。

2番のコンチェルトは、ディスクで聞くとついつい聞き流してしまうのだけど、曲の構造もクッキリ見えて想像以上に楽しめた。

メインのアルペンは、「音を浴びて、響きにひたる」ような演奏だ。ホルンの太くて華やかな響きと、オーボエの冷涼で芯のある音が核となって、すべての管楽器が持ち味を最大に発揮したと思う。

後半になって特に感じたのは、これは単なる描写音楽ではなく、人の生命、あるいは生き方を語ろうとしているんだなということ。、「頑張ってアルプスに登って感動したけど、帰りは大変でした」というような話ではないんだよな、と改めて思う。

リヒャルト・シュトラウスの曲というと、このアルペンやツァラトゥストラ、あるいは英雄の生涯など、「響きは凄いが、空虚で精神性に欠ける」などという評論家の作文がずっとまかり通ってきた時代があった。

それも、まあ仕方なかったかなと思うのは、あまり演奏される機会がなく、たまにディスクが出ると「オーディオ・チェック」のための商品のように扱われてきた。

ようやく、一般的に演奏される機会も増えてくると、作曲家が実に深い思索をしていたのではないか?ということを考えるようになる。

そういう意味では、凄い技術でありながら、ジンワリと聴かせてくれる理想的なコンサートだった。