「大人のマーケティング」のための1冊『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』
(2017年4月27日)

カテゴリ:読んでみた

著者の本田哲也さんよりご恵送いただいたのだが、この『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』は、PRというよりはマーケティング戦略の本だと感じた。しかも、日本のように成熟した市場ではとても大切なキーワードが並んでいると思う。

まず、冒頭で現在の競争局面を「買う理由」の代理戦争であるという。この考え方は、マーケティングの世界では大きな流れになっているが、僕がそうしたことを講義で話してブログで書いたのは、いま調べたら7年前だった。

それは、とても単純な理由だと思う。

「製品ライフサイクル」という言葉がある。導入期・成長期を経て、成熟期を迎えてやがて衰退期に入るという有名なセオリーだ。

ただし、最近はあまり聞かない。ある種当たり前になっていることもあるが、本質的な問題は別のところにある。

ほとんどの製品やサービスが「成熟期」に入っているのだ。これは、コトラーの「マーケティング・マネジメント」にも書いてある。相当前からこの記述はあるはずなので、ライフサイクルの波よりも、成熟期に何をするかが問われるようになって久しいのである。

そういう時代になると、単なる新奇性だけではモノは動かず、サービスにも反応しない。心理的なトリガーをどうするかが課題になるわけだ。

そうした時代におけるあらたな視点が、本書では6つのキーワードが提示されるのだけれど、どれも納得性は高い。

「おおやけ/社会性」は買う人に「正しさ」という錦の御旗を渡すことになり、「ばったり/偶然性」は運命的な出会いを意識させるだろう。

しかし、力任せのプロモーション発想ではない。「いまだけポイントX倍還元」のように、稀少性を梃子に煽るようなアイデアとは一線を画している。

だから「おすみつき/信頼性」や「そもそも/普遍性」のように、いわば「大人の視点」も語られるし、「しみじみ/当事者性」や「かけてとく/機知性」のようにちょっと知的なアプローチも紹介される。

全体を通して感じるのは「大人のマーケティング」という空気だ。

インターネットがマーケティングの主戦場になってきて、ちょっと「行儀の悪い」やり口もちらほらと、いや結構派手な問題になることも増えた。

そういう中で、こうした落ち着いた視点の提示はとても嬉しい。マーケティングの仕事、といっても短期的な数値に追われがちな人にこそ、ぜひ読んでほしいと思う。