まだ戦国には鮮度がある~『会津執権の栄誉』と『駒姫』【書評】
(2017年6月27日)

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歴史小説は、嫌いではない。というか、特定ジャンルの小説ばかり読むわけでもないので「まあ好きなものの1つ」というくらいだろうか。このカテゴリーのおもしろいところは、結構歳を重ねてからデビューされる人も多いことだと思う。

『会津執権の栄誉』(文藝春秋)を描かれた佐藤巖太郎氏も、1962年生まれで2011年にオール読物新人賞を受賞している。加藤廣が連載していた『信長の棺』を発刊したのは、なんと75歳だ。

新聞記者だった司馬遼太郎がデビューしたのは36歳のことだが、72で没しているので後半生のみで、あれだけの作品を書いたことになる。若くして書いていたら、と思わずにいられないが、やはり歴史小説を書くには「絶対年齢」が影響するところはあるのだろう。

ことに生死が紙一重の世を生きていた者たちのリアリティは、それなりに人生経験を重ねた者でないと表現が難しいのだろうか。

いや、年寄りくさい話になったけれど、この小説は構成が緻密で人物もクッキリ描かれていて、かつちょっとしたミステリアスな趣向もある。

そして、舞台は戦国の会津だ。僕は、江戸時代から先祖が会津藩でお世話になっていることもあり、それ以前の時代の話とはいえどこか気になるんだけど、そういうひいき目を抜きにしても引き締まったいい作品だと思う。ちなみに、直木賞の候補だ。

考えてみれば、日本の歴史小説は司馬遼太郎という人の影響というか、その存在がとても大きく、ある意味で呪縛もあったのだろうと思う。

たしかに、気宇壮大で読みやすく、僕らの世代は彼の小説で歴史を学んだのではないだろうか。『国盗り物語』は小学校4年の時だけど、無理して原作を読んでいた。教えられなくても戦国武将の名は勝手に覚えていた人は結構いただろう。

しかし、戦国というのは必ずしも三英傑だけで回っていた時代ではないし、畿内から東海にかけてのエリア以外にもたくさんのドラマがある。

もちろん、その一方で中央の権力者の闘争に翻弄されることもあって、この小説もその辺りの切り取り方が絶妙だ。

また武内涼の『駒姫  三条河原異聞』(新潮社)も、戦国における悲劇のエピソードを精緻に再構成して感動の物語に仕上げている。こちらについては、何を書いても哀しさが滲んでしまうのでやめておくが、先の『会津執権の栄誉』に出てくる秀吉像と比べてみるのもおもしろいかもしれない。