問題になる広告は、「文脈」を忘れてる。
(2017年7月11日)

カテゴリ:広告など,読んでみた

広告がまた炎上している。そして、サントリー「頂」の一件を見ていて思ったんだけど、もはや「文脈(context)」ということを広告クリエイターがあまり考えなくなったんだろうな。

いや、かつては打ち合わせで「この企画の文脈は~」とか、そんな話をしていたわけじゃない。表現を考えたときに、「誰がどんな時にどう感じるか」をいうことをどこか意識しながら、「これはやばいんじゃない」とか話しながら企画を固めていたはずだ。

いや、別に文脈っていうのはそんな難しいことじゃなくて、講義や研修などではこんなことを話している。

いきなり、一人の学生や受講生に向かってこう言う。

「バカ」

で、「ごめん、いまイラッとした?」というと、大概の人は頷く。中には「相当むかついた」という人もいる。

そうだよね。じゃあ、こういう会話はどう?

「あ、いっけねえ~」

「どうした?」

「この暑いのに、ホットの缶コーヒーのボタン押しちゃったよ」

「バカだね~」

ほら、別にイラッとしないでしょ。同じ「バカ」でも文脈によって感じ方は違うんだよ。ただし、それが微妙なところもあるんだな。

「あ、いっけねえ~」

「どうした?」

「作業したデータ消しちゃったよ~1時間かかったのに~」

「バカだね~」

さて、この状況で「バカ」と言われるとどうなのか?相当境界線上だと思う。つまり、一つの表現で人を不快にさせるかどうか?を考える時には「言葉そのもの」を議論しても意味がない。

大事なのは当事者のその時の心理だ。言葉でもシーンでも、その文脈をうまく捉えられれば絶妙な効果も可能になる。

最近だと、綾野剛らを起用したドコモのCMは文脈をうまく活かしているケースじゃないかな。個々の表現自体を突出させることなく、気がつくと「あの世界」を感じてしまうのは、視聴者が持っている文脈を活かしているからだと思う。

一方で「断片化された表現」を「おもしろい!」といってそのまま世に出せばこういうトラブルはいつまでも終わらない。

文脈を考えないクリエイティブはトラブルを生むだけではなく、効果的表現を生む機会も逸している。

炎上マネジメントの話に関心がある人も多いようだけど、「いいクリエイティブ」の話をしたいよなあ。

 

なお『コミュニケーション論をつかむ』という一冊は、本当に「論をつかむ」ことができるいい本だ。ページを開けば、先の文脈の話もとても分かりやすく書かれている。クリエイティブの仕事をして、少し慣れてきたころにはこういう本を読んでおいた方がいいんじゃないかと思う。