「トランプ支持者」でわかった気になってはいけない。『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々【書評】
(2017年11月8日)

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ジョーン・C・ウィリアムズ著/山田美明・井上大剛(訳)『アメリカを動かす「ホワイト・ワーきんぐ・クラス」という人々』(集英社)

考えてみれば「あの」大統領選挙から、ちょうど1年になる。

トランプの選出に驚いたメディアは、その「支持者」がどのよう人かに注目した。「ラストベルト(rust belt)のように耳慣れない言葉が飛び交い、それは「不満を持つ白人」としてレッドネック(redneck)のような表現とともに耳にはするものの、その実情はどのようなものなのか?

報道は多かったものの、その心理のインサイトや背景に迫ったものはなく、いかに表層的だったのか。つまり、彼らの心情については実は何一つ理解していなかったのではないか?

この本を読んで、改めてそう思った。著者はカリフォルニア大学の教授だが、表層的なジャーナリズムと、本物のアカデミズムの差を実感する。

ただし、この本はとても読みやすい。しかし、深い。著者の視点はニュートラルで、本当に米国の未来を深く考えていることに感動する。

そして、ワーキングクラスをめぐる課題は、米国だけのことではないわけで、どの国においても「自分事」となるだろう。

「なぜ、ワーキング・クラスは専門職に反感を抱き、富裕層を高く評価するのか?」

このタイトルの章では、こう書かれる。

「医師は医療技術者をに見下した態度をとり、苛立ったオフィスワーカーは警備員をまるで目に見えないもののように扱う。オーバーブッキングで飛行機に乗り損ねた出張のビジネスパーソンは、運輸保安局の職員に文句をまくしたてる」
こうした、専門職への反感はまさにワーキングクラスのインサイトだ。そして、彼らは富裕層は「本当に頑張った人」として評価するが、高学歴で資格を得た人は「恵まれただけの人」ととらえる。

ヒラリーが敗れて、トランプが勝利した構図だ。

また、ワーキングクラスが「仕事のあるエリア」に移ればいいという「上からの態度」も彼らの反感を呼ぶという。なぜなら、彼らは地域の住人や親せきと協力し合いながら、家事や育児をこなしていて、その密接なネットワークを大切にしているのだ。

「家事の人を雇えばいいだろう」という発想は、カネのあるなし以前に価値観として受容されない。
こうした、インサイトを丁寧に探っていけるのは、この本のもととなったハーバード・ビジネス・レビューのウェブ版への反響も含めてまとめてあるからだ。その上で、統計的な裏付けもあるから説得力は高い。

さて、これを読めば「ああ、日本でも」と思い当たる節はあるかもしれない。そう読めないこともないが、米国と日本ではもちろん異なることもある。先のような「専門職への反感」は日本ではどうなのか?
この辺りは、ぜひ一読されたうえで考えるべき問題だろう。米国の現状を知る上でも、日本の未来を考える上でも、そして何より「誇りをもって生きる」という大切なことに思いを馳せるためにも素晴らしい一冊だと思う。
広く薦められる、
あ、そうだ。最後の方には米国における「民主党の失敗」について丁寧に書かれている。同じような名前の党の方や支持者は、ぜひここを読むべきだろう。現在の日本の政権与党の「良くも悪くものしたたかさ」がよくわかるはずだ。