なぜ、あの虫は”G”と呼ばれるのか?
(2018年7月31日)

カテゴリ:世の中いろいろ

7月は、豪雨に猛暑に逆走台風で、関東ではやっと「普通の夏」になった気がする。それでも、十分暑い。

こうも暑いと、動物もきついだろう。猛暑の頃、家を出た先の道の隅で、あの虫が引っ繰り返って死んでいた。最近は、アルファベット7番目の文字で表記される、あれだ。タフと言われるあれがああなのだから、相当な暑さだったということなんだろうか。
ちなみに、我が家ではもう20年ほど見ていない。「コンバット」のおかげだと思う。すくなくても、鉄筋の集合住宅では相当効果があるんじゃないだろうか。

しかし、なぜあの虫は片仮名4文字で呼ばれなくなったのか?一応名前はあるが、最近は耳にしなくなり、イニシャルになっている。

で、その理由なんだけど、それは、現代の日本社会における「禁忌(タブー)」と深く関係しているんじゃないかと、勝手に思っている。

禁忌の研究というのは、民俗学などでは大きなテーマで、「キュウリ タブー」とかで検索すると、結構出てきて、先日行われた博多の祇園山笠などが有名だ。

しかし、名前自体の禁忌とは何か?それは、「避けたい対象には直接その名を呼ばない」ということである。

いや、これは最近のあの虫についての話ではない。

学生時代にドイツ語の先生が話していたのだが、ドイツなどヨーロッパ内陸では「熊」がその対象になったという。「言うと出てくるから」のように、禁忌とされていたということだった。

少々うろ覚えだったが、調べてみたらロシア語などスラブ圏の言語が最も忌み嫌われていて、「蜂蜜を食べる奴」という意味だ。ドイツ語などのゲルマン系では「茶色い奴」で、ラテン系だと元のラテン語を受け継いでいるらしい。この辺りは、こちらのエッセイ(リンク先pdf)から学んだ。

つまり、熊との接触可能性が高いエリアほど忌み言葉として、間接的な表現になる。まさに「ことばと文化」の世界なのである。

しかし「茶色い奴」ならまだしも、「蜂蜜を食べる奴」となると何だか可愛くなっているではないか。それは、あのネズミの国の策略に騙されているのかもしれないが。

さて、問題の虫であるが、なぜイニシャルで呼ばれるようになったんだろ?調べても不明だけど、大体今世紀に入ったくらいからだと感じてる。

で、何でもネットのせいにするのはどうかと思うけど、これは深い関係があるんじゃないか。たとえば、夜にアイツに遭遇して悲鳴を上げた時に、思わずその恐怖をSNSなどに書き込もうとする。

すると、キーボードでもスマートフォンでもいいけど、「あの4文字」を書きたくなるだろうか?濁音が2つで、KとRから成り立つ4音節だが、どこか最凶という感じがする。

そうだ、響きからおぞましい。声に出したら召喚し、文字にすれば増殖する気がする。

名は体を表す。モンシロチョウはいかにも可憐だし、アゲハチョウは大人の色気がある。コオロギは、まあ濁点1つで踏みとどまっているが、あのカタカナ4文字には命名者の嫌悪と怨念が込められているのではないか。ソシュールが何といおうと、そうに違いない。

かくして、誰もが情報を発信できる社会になり、一気に禁忌が広がったんじゃないか?というのが私の仮説である。

ネットが普及し、ソーシャルメディアが拡大して、あの虫の名はアルファベット1文字に取って代わられるようになり、かくしてあの4文字は言語空間で抹殺されようとしている。

私たちは、1つの名詞が消滅していく様態を現在進行形で観察しているのか?しかし、その一方で実態のあいつらは健在なのか。

まだまだ、夏はこれからなのだった。