【2018年の本から/3月】『雪の階』から新訳の『アンナ・カレーニナ』まで。
(2018年12月12日)

カテゴリ:読んでみた

さてさて、3月になった。

リストを見てみると、そうだそうだ奥泉光『雪の階』(中央公論新社)ではないか。これは、そうとうやられたなあ。昭和初期を舞台にした長編だけれど、ミステリーというには収まりきらないスケールで、歴史小説というにはファンタジックだ。1年を振り返っても、フィクションでは一番響いたかな。詳しくはすでに、こちらのブログに書いてある。

ノンフィクションではヴィンセント・ディ・マイオ『死体は嘘をつかない』(東京創元社)がよかった。筆者は親子2代にわたる検死医で、多くの犯罪に立ち会い、裁判にもかかわったきた。単なる「犯罪小説の裏側」にとどまらずに、事件を通じて米国社会の構造が浮かび上がって来る。検死に関わる話は小説にも多く、「またかな」という気もしたけれど、この辺りの複層的な厚さが類書とは全く違った。

佐藤賢一『遺訓』(新潮社)は、西郷隆盛を描いているのだけれど、主人公は沖田総司の甥であり、カギを握るのは庄内藩に連なる人々。佐藤賢一ならではのスケール感があり、なんか「日本の歴史専門です」みたいな小説家は、ちょっとつらいんじゃないかな、と余計な心配をしてしまう。

鶴ケ谷真一『書を読んで羊を失う』(平凡社)と、『猫の目に時間を読む』(白水社)は、どちらも新刊ではないけれど、どちらも珠玉の文芸エッセイ。こんな達者な人を知らなかったとは、迂闊だったなあ。このタイトルが気になったら、ぜひ読んでほしい。たとえばシンデレラの物語のルーツを辿って、中国の方までいろいろと探っていく話とか本当におもしろい。

宮内悠介『ディレイ・エフェクト』(文藝春秋)は、前回の直木賞に続いて、今回は芥川賞候補作を所収。ただ、正直ちょっと厳しいかなという印象だった。『あとは野となれ大和撫子』はたのしかったけどなあ。

伊兼源太郎『地検のS』(講談社)は、地味だけどうまい連作ミステリー。地検といっても特捜部ではなく、フツーの検察のちょっとフツーではない話だ。

何となく調べ物ついでに買って面白かったのは 2012年の本だけど菊地浩之『日本の地方財閥30家』(平凡社新書)だ。「ケンミンSHOW」の財界版というか、「あ、あの会社が」みたいな驚きもあり、日本の近代史の縮図にもなっているのが楽しい。

ビジネス書は読書というより調べ物という感じなのであまり紹介はしないけ

れど、ジェフリー・ムーア『ゾーンマネジメント』(日経BP社)は、普通の会社にとっての基本的なマネジメント再生に効果的なのではないか。GAFAやBATの事例ばかりでお腹いっぱいになっているビジネスパーソンにはお薦めだ。

そして、少し前からダラダラと他の本の合間に読んでいたトルストイ『アンナ・カレーニナ』(光文社古典新訳文庫)を、やっと読了。トルストイの中では読みやすいと思ってたけど、読み始めるとやっぱり手強い。でも、やっぱり新訳はいいと思う。

この小説、何度も映画化されているように、ストーリー構造はわかりやすい。そして何より、「登場人物が、みんなどこかダメ」というのがこの小説の魅力だろう。家柄もよく社会的地位の高い人が集まって、ダメなドラマを繰り広げる。そこに、この小説の普遍性があるのかもしれない。