2019年11月アーカイブ

フィラデルフィア管弦楽団 来日公演   

2019年11月4日(月) 16:00 サントリーホール

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35/マチャヴァリアニ:ジョージアの民謡よりDoluri(ヴァイオリン・アンコール)/マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調

指揮:ヤニック・ネゼ゠セガン/ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ/フィラデルフィア管弦楽団

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まだ、指揮者は動かないけれど、ソロ・トランペットはゆっくり楽器を構える。ネゼ=セガンはまだ動かない。そして、おもむろに三連符が鳴り響く。ソロが終わり、全奏のアウフタクトで、おもむろにタクトが震えて、爆発が起きる。

以前このコンビを聴いたのは2014年来日時の『巨人』で、とてもいい印象だったんだけど、いま自分の書いたブログを読み返すと、アンサンブルには不安定さを感じていたようだ。ただ、今回聴いた印象だと、ネゼ=セガンとの信頼関係はとても強く、丁寧にオーケストラを仕上げて、相当高い水準になってきたと思う。

全曲が終わったあと、管のソリストを立たせる前に第一ヴァイオリンから順に握手をして、コントラバスまで歩んでいった。アダージェットが象徴的だけれど、まず弦楽器のアンサンブルを整えて、オーケストラを構築していく彼の姿勢が伝わってきたように感じた。

フィラデルフィア、というとかつての華やかなイメージが強いけれど、ホルンのソロを始めとして決してキラキラした感じではない。金管のなり方も、春にドゥダメルと来日したロス・フィルの方が、オルガンのように圧倒的だ。

でも、丁寧なアンサンブルで音楽を聞かせてくれて、ネゼ=セガンはマーラーの「うねり」をしっかりと描き出している。音楽の波にのまれていくような気持ちよさが、このコンビの持ち味なんだろう。
マーラーだからといって、過剰にグロテスクなイメージを強調することはない。5番という曲は無理に陰影をつけるよりも、どこか突き抜けた明るさがかえって不安な気分を煽る感じもするから、今日のような演奏はとても好きだ。

前半のチャイコフスキーは、たっぷりと歌い、かつ速いパッセージも精緻で、これほどの演奏はなかなか聴けないんじゃないかな。2月のコパチンスカヤはたしかに印象的だったし、タイプが違うので比べることもおかしいと思うけれど、「目眩ましの創作料理」に対する、「正攻法の一皿」というイメージだろうか。

それにしても、ネゼ=セガンとフィラデルフィアから伝わってくるのは、「熱い信頼」だろうか。「厚い」ではなく、「熱い」感じ。今度はベートーヴェンとか聴きたいなと思った。