人の自慢話を聞いて面白いと思うことは稀だけど、この本についてはあまり気にせずに読める。
ロジャー・エンリコ『コーラ戦争に勝った!』(新潮文庫)を再度読み終えてみたが、お話としては面白かった。一度読んだ記憶があるのだが、おそらく入社間もない頃だったのだろう。
ぺプシが攻勢をかけた1980年代前半、そして85年にコカコーラが「ニューコーク」を発売して、90日ほどで元の味を「クラシック」として出すまでのマーケティング史上の歴史に残るエピソードが、リズム感のいい文体で書かれている。
もう絶版だけど、amazonでも入手できる。ただ、いま広告の仕事に携わっている人の勉強になるかというと、ちょっと違うかもしれない。
時代の変化を実感して、軽くため息をつくにはいい本なんだけど、そんなニーズってあるのだろうか。
「ああ、時代が変わったんだな」と思うことは幾つもあって、まずは「消費者に情報を届ける」という点について、本当に無邪気な程に単純だと言うこと。
お金さえあれば(実際あるのだけれど)テレビと新聞にド~ンと広告を打つだけで、情報は消費者のもとに届く。そういう時代のマーケティングなのである。
しかも、表面的な情報ではない。「ペプシ(コーク)の言わんとしたこと」がキッチリと届いて、しかも市場シェアに反映されるのだ。
また、ソフトドリンク市場が成長プロセスにあることもよくわかる。
彼らも新商品投入については悩むのだが、それでも結局は大胆に切り込んでいく。それはそうだ、ダイエットペプシが3年で2倍になり、3リットル・ボトルもガンガン売れている。市場が伸びれば、新製品の投入はたしかに容易だ。
それも、また昔の話である。
だが、僕が違和感を感じだのは、そういう理屈ではない。時代の「空気感」がまったく違うのである。
この本の舞台になったのは1982年の米国だ。81年から大統領に就任したロナルド・レーガンの時代で、84年にはロサンゼルスでオリンピックが開かれた。
第二次オイルショックの後で、経済成長率自体は決して高くない。日本の製造業が世界を席巻していて、"Japan as No.1"が出たのが79年。レーガンの元で次第に自信を取り戻していたとは言え、90年代のクリントン時代や、昨秋以前の何年間の方が、成長率を比べれば高いはずだ。
だが、この本で描かれるこの時代の米国は、とても楽しそうだ。ペプシのCMに出たマイケル・ジャクソン、ライオネル・リッチー、マイケル・J・フォックスらの逸話。その他ミュージシャンの懐かしい名前と見ると、ザワザワとした活気に溢れつつ、どこか大らかな空気が伝わってくる。
全米がペプシとコークに注目し続ける......その一事をとっても、時代の空気が全く変わってしまうことを知る。それを、単に懐かしがっただけで何も生まれるものはないんだろうけど、せめて何かヒントになることは行間から読めないだろうか......そう思って読み進めたけど、特に書けるようなことは見つからなかった。
それが、時代の変化というものなんだろう。
結局、散歩の途中で見つけたドクターペッパーが気になって、ついつい買ってしまった。ソフトドリンクの興亡を読み進めるうちにどうしても気になったのである。
それこそ、この本の舞台になった四半世紀前に飲んだきりで、あまり印象がよくない飲み物だったが、結構おいしかった。後味もスッキリしている。
それだけ、時間が経ったということなのである。