「ちょっと、表現が唐突だったかな?さっきは」
「デパートの中に100円ショップ...つまり、あんまり儲かりにくいモノを売る、ということですか」
「そうだ。かつ、あまり"差別化"できないものを売るということだ。デパートは世界中から一級の品を集めてきた。それを買い付ける人"バイヤー"のスキルとセンスがデパートの価値を支えてきたといっていい」
「はい、わかります」
「広告ビジネスも同じだ。それぞれのブランドにふさわしいメディアの展開プランと、クリエイティブを実行できるスキルとセンスがあるからこそ、事業主はお金を払う」
「でも、それ以外のことをして売上げを維持しているんですね。マス広告自体が何年か前から減っているのは知っています。でも、広告代理店は伸びている年もありますし、デパートみたいには、なっていません」
「それは、マスメディア以外の"プロモーション"といわれる分野で補っているからだ。ただ、これは手間がかかる上に利益率も低い。店頭の商品周りの細かいツールをつくったりするからね。それに参入障壁が低いので値下げ競争になる」
「あんまり儲かりにくいんだろうな、というイメージはあります」
「イベントなんかでもコンサートやスポーツだけじゃない。週末も朝から晩まで秋葉原の店頭でお手伝いするのも"イベント"だし。チラシや小さな媒体も取り組んでいる」
「あの......そうなると給料は下がるんですか?」
「たしかに、新聞やテレビなどのマスメディアの価格も下落せざるを得ない。ただ、全部ネットのせいにするのは間違っていると思う」
「そう...なんですか?」
「最近、雑誌が廃刊になったり、新聞やテレビの広告が減少しているのは知っているよね?」
「はい...必ずのように"インターネットなどに押されて"とか書いてありますけど」
「たしかにそういう面もある。広告主は効果が分かりやすい施策を選ぶからね。でも、もっともっと根深い問題があると思うんだ」
「なんでしょうか?」
「それは、日本の人口構造が変わって、いわゆる"成熟化"が進行していることだ」
「"成熟化"ってわるいイメージはあまりないんですが」
「簡単にいえば、もうモノは溢れている上に、高齢者が増えている。広告を見て"ああ、これ買いたい"という気持ちになりにくい」
「なんか、暗い感じですか...?」
「まあね。でも、生活していく上では必ず消費行動が起こる。ただ、広告の刺激だけで購買しない傾向は全年代で着実に広まっている。ネットで調べたりすることは、それに拍車をかけるけど、まず前提にあるのは"成熟化"だ」
「僕なんか、やっぱり広告が気になりますけど」
「それは君が若いからだし、広告に関心があるからかもしれない。それに、広告がまったく効かないわけじゃない。スーパーやコンビニで売っている商品などでは"一定の効果"はある」
「それでも、昔ほどではないんですね...たしかに広告してないけど、安い商品を買うこともあります。コンビニのカップ麺とか」
「そうだよね。だとすると、広告代理店も仕事の局面を変えていかないと」
「どういう風にですか?」
「規模の大きい代理店だからといって、"最先端"とは限らない......大手の方が常に新しいことができるのかな、と思っていました」
「まあ、大小は関係ないんだけど。要は研究開発に対する姿勢だ。大手自動車メーカーでも環境技術に乗り遅れているところはあるし、googleのようにベンチャーからスタートして世界を一変させた企業もある」
「変革できるか、っていうのは企業の意志、ということですか?」
「そう思う。今だと"イノベーション"っていうみたいだけど、とりあえず。広告業界の人は殆ど理解してないまま、念仏のようにとなえているけどね」
「僕も、全然わかっていないと思います」
「まあ、いいよ。要は血を流す覚悟と捨てる勇気がどれだけあるかということだ」
「大変、なんでしょうか?広告は。大手代理店もなくなる、というのは想像しにくいんですけど」
「広告代理店は、つぶれにくいと思うよ。リスクを負う投資をしていないから。仮に売上げが減っても社員をリストラして給料減らせば生き延びること自体は可能だから」
「どうなるでんしょうか?」
「わからないけど、このままだと利益率は低下するだろうね」
「どうしてでしょうか?」
その学生は「広告が第一志望です」とハッキリ言った。
その上で、こうも言った。
「広告業界が大変な時期にさしかかっていることは、知っているの?」
「はい、まだ詳しく研究したわけではないのですが、大手の代理店でも今年は厳しいと聞きます」
「そっか......細かい数字はともかく、たしかに大変だ。理由はわかっているの?」
「はい。やはりインターネットの浸透で新聞やテレビの広告が減ったからだと理解しています」
「それでも、いいの?」
「他の業界にくらべて、"やりたい"と思うことがあるのは広告なんで。もっとも今どこに入っても、10年~20年後に同様とは思えません。そのくらいの心構えは持っているつもりです」
「5年かもよ?いや、もっと短かったりして」
「......」
「わかった。じゃあ、話をする前に一つ確かめておきたい」
「なんでしょうか?」