2015年08月アーカイブ

51og1MFiS1L._SX341_BO1,204,203,200_[読んだ本]ジェシー・バートン著 青木純子(訳)『ミニチュア作家』(早川書房)

もう夏も終わるかのような陽気で、かつ世界経済大荒れ感の中で、もうちょっと現実離れした欧州の時代小説を二つほど。

まずは、『ミニチュア作家』という17世紀のオランダを舞台にした作品。著者は1982年生まれの英国の女優だが、経歴には「舞台に立つかたわら、シティで秘書として働く」とあるから、まあ売れっ子というわけではないのだろう。ところがこの作品は欧州では相当受けたようで、昨年出版されて32ヵ国で翻訳出版されて、英国の書店チェーンの「ブック・オブ・ザ・イヤー」受賞というのは、ちょうど「本屋大賞」といった感じだろうか。

アムステルダムの裕福な商人の家に嫁いだ18歳の娘を取り巻くちょっとミステリアスなストーリー。夫、義妹、使用人など皆が秘密を抱えているような空気の中で、物語はそのヴェールを一枚ずつはがしていくように進んでいく。

夫からの贈り物である、素晴らしいドールハウスと、それを「作っているらしい」ミニチュア作家の存在がストーリーの通底で謎めいた雰囲気を醸し出している。ただし、ミステリーというよりは、ファンタジー的な要素も色濃いため、あまりカッチリしたお話と期待してしまうと、肩透かしを食うかもしれない。

夫はオランダ東インド会社の一員という設定で、この時代のビジネスの雰囲気が伝わってくるのも面白い。レンブラントの絵を思い浮かべながら読むといいんじゃないかな。 >> 【夏の本祭り】欧州時代小説の魅力『ミニチュア作家』と『スウェーデンの騎士』の続きを読む