2018年12月アーカイブ

12月になると「今年の○○」が特集される。いろいろ見ているうちに、ふと「自分の読んだ本」を振り返ってみようかと思った。すべてとなると大変なので、抜粋になるし今年以外も混じりそうだけど。

新刊を中心にするつもりだが、古典も読むのでその辺りは寄せ鍋みたいなものになるかもしれないけれど、まずは1月から。

例年のことなんだけれど、12月になると「今年のミステリー」などが出てきて「ああ、これ読んでないや」ということで年末年始は謎解き三昧になる。今年もそんな感じだったし、正月を1人で過ごすという初めての体験もあって、いろいろ読んだ。

で、今年のベストなども既に出ている中でいまさら感はあるんだけど、日本人作品だと今村昌弘『屍人荘の殺人』(東京創元社)が各ランキングのトップで、海外だと陳浩基『13・67』(文藝春秋)と、ウィングフィールド『フロスト始末』(東京創元社)が高評価だった。

どれも十分に面白かったけれど、個人的には『13・67』がミステリーの精緻さと、独特の空気感でとても好きだ。あまりに良かったので、4月には香港旅行に行ってしまったくらいだ。

『屍人荘』は、まあタイトル通りにSF的な仕掛けに見えるけれど、構成としては「あり得る話」として成立させている。今年は「カメラを止めるな!」もあり、あの手の話はやはり構成次第では相当面白いものができるわけだ。

フロストの最終作は、実は10年ほど前の作品だが未訳だったものだ。ファンにとっては惜別の気持ちはあるけれど、いろいろな意味で「予想の範囲内」という感じかな。

ノンフィクションでは、板谷敏彦『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)が、興味深いアプローチだった。著者はエコノミストだった方なので、経済面からのアプローチが明晰だ。一次大戦は日本人には今一つなじみが薄いところもあるが、2016年に出た飯倉章『第一次世界大戦史―諷刺画とともに見る指導者たち』(中公新書)がなどと併せ読むのもいいかもしれない。

ただし、『夢遊病者たち』(みすず書房)は、相当先の課題になりそうだけど。

歴史小説では、有名武将の初陣を描いた宮本昌孝『武者始め』(祥伝社)や、幕末の相撲というユニークな切り口の木村忠啓『ぼくせん』(朝日新聞出版)あたりが印象的だった。

クラシック音楽に関わる書き手で、読むたびに唸ってしまう岡田暁生『クラシック音楽とは何か』(小学館)はビギナー向きのようでいて、深い。

島田雅彦『深読み日本文学』(集英社インターナショナル)は、深読みというより妥当な読み解きで、いい意味で「浅い」と思うわけで、古典を再読したい人にはお勧めできる。

というように振り返ると『13・67』は今でも印象が強いんだけど、実は読んでいて誤植を見つけた。書店には二刷もあったけど、直ってないので文藝春秋にメールしたら、ていねいに返事が来た。文春ほどの会社でもこんな誤植があるのかと驚いたけど、初版では読んだ人も気づかないんだなと驚いた。

だって、結構重要な登場人物の苗字だったのに!

さて、こんな感じで12ヶ月分も書けるんだろうか。

【追記】調べていたら、今村昌弘氏の新刊は『魔眼の匣の殺人 』ということで来年2月に東京創元社から出るようだ。既に予約をしているようだが、どうやら次作も「あの世界」らしいよ。