2017年05月アーカイブ

【読んだ本】御厨貴他編『舞台をまわす、舞台が回る 山﨑正和オーラルヒストリー』(中央公論新社)
オーラルヒストリー、つまり口述により歴史を検証するという方法論はすっかりお馴染みになって来た感じもして、その第一人者の御厨貴氏が3名を加えたチームで挑みかかった相手が山崎正和氏だ。

山崎正和の名は、若い人には既に縁遠く、また彼を知る世代にとっても、人によってその印象は相当に異なるだろう。劇作家にして批評家であり、大学の先生でもあったが政治にもまた深く関与していた。また「柔らかい個人主義の誕生」はマーケティングにおいても、重要な著作だ。

いま、専門領域の研究者はたくさんいるが、「知識人」あるいは「文化人」と呼べる人は思いつかない。氏の政治的立ち振る舞いは穏健な保守で、真の「リベラル」と言えるだろう。それにしても共産党まで含めた勢力が、いつの間にリベラルとか自称するようになったのか。そう名乗らざるを得ない革新勢力の迂闊さと、保守のしたたかさがまた浮き彫りになってくる一冊だ。

満州で過ごした幼年時代の凄絶さや、敗戦後の混沌。その話を読むだけで、知の土台となる経験の厚さがわかる。そして、「世阿弥」で注目を集めたのちに、時の佐藤総理の首席秘書官、楠田實から声がかかる。

それは学園紛争の時代であり、彼がその後もブレーンであったことはよく知られているが、本人が語る内容を他の資料と比べていくことで、改めて全体像もわかる。この辺りは相当に面白く、一級の戦後史だ。 >> したたかな保守と、迂闊な左翼。山崎正和が語る一級の戦後史『舞台をまわす、舞台がまわる』【書評】の続きを読む