知られざる維新を描く傑作。『西郷の首』【書評】
(2017年12月4日)

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なかなか癖のあるタイトルだが、西郷隆盛はほとんど出てこない。主人公は徳川から明治の時代を生きた、加賀藩の2人の男である。

島田一郎と、千田文次郎。

2人とも実在した人物で、この時代に詳しい人ならば名を見ただけで「ああ」と分かるかもしれない。僕は迂闊にも名を検索してしまったが、もし知らないのであればそのまま読んだ方がいいだろう。

もちろん小説ではあるけれど、社会背景や事件との関りは事実に基づいて書かれている。そして、その激動の背景にあった人間模様が浮かび上がることで、あの維新の数年間が浮かび上がって来るという仕掛けだ。

明治維新は1868年。それは改元の年だ。しかし、回り舞台のようにクルリと新時代がやってきたわけではない。その前年の大政奉還から王政復古の間にも駆け引きがあり、3年後の廃藩置県までは、まだ「藩はどうにかなるのだろう」という意識もあったのだろう。

だからこそ、中央集権が進むことで下級武士の不満が高まり、あちらこちらでたまったガスに引火するようにして事件が起きていく。

時代が変わる時には、人間の器量が問われる。適応しようとすれば追従するのかと蔑まれ、意固地になれば頑固者と疎んじられる。

それでも、否応もなく歴史は回っていく。加賀藩という、今まであまり取り上げられなかった視点から描かれる明治維新の物語は、とても斬新だ。

明治維新は様々な角度から描かれてきたが、いろいろと読んできた人ほど、緻密な構成に唸らされるだろう。また、この時代のことをあまり知らない人にとっても、時代が俯瞰できる構成になっている。

有名な評論家が「よほどの傑作がこの後でない限り今年の歴史小説のベスト1」のようなことを書いていたのもよくわかる。

ただ、そこまで書かれると、ちょっと言いたいこともあって、小さな不満があるのだ。

まあ、こんなこと書くのは偉そうだとは思うのだけれど、いま一つ人物のパーソナリティが浮き上がって来ない。(多分、大家であれば「人間が描けてない」とか言うかもしれないけどさすがそこまでは書けない)

どうやら、登場人物が多いためか、描写が薄いことが多いのだ。1人ひとりが、勝手に動き出すような感じがしないのだけど、これは連載後に加筆するなど、もう少し紙幅を増せばよかったのではないかと思う。

ただし、既に450ページ以上ある。その辺りの事情はわからないが、ストーリーを追うだけで、あっという間に終わってしまう感じがある。

でも、これだけの量をあっという間に読ませてしまうのだから、もちろん面白い。ベストかどうかはともかく、維新を描いた小説のなかでは近年の傑作だと思う。

ちなみに、僕は読み終わった後に「大久保利通ってすごかったんだな」と感じた。その辺りは、また人それぞれだろう。

いずれにせよ年末年始のお楽しみには、ちょうどいいのではないだろうか。