バッハ・コレギウム・ジャパン 演奏会

指揮: 鈴木雅明

201543日 1830 分 東京オペラシティ コンサートホール

J.S.バッハ:マタイ受難曲BWV244

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はじめて、マタイを生演奏で聴いた。この曲は演奏機会が少ないうえに、季節的にも復活祭前におこなわれることが多く、それはまた日本の年度末にも重なり、ついつい行きそびれていた。

バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)を聴くのも初めてなので、コンサートの感想というよりは、マタイという曲について感じたことを書いておこうと思った。

クラシックを聴くきっかけはいろいろだろうが、大概はオーケストラかピアノから入っていくことが多いと思う。そして、自ら楽器を演奏すると、その楽器がかかわる曲を聴く。僕もそうだが高校から大学までオーケストラにいれば、自分たちが演奏する曲を中心に聴くのでマーラーの交響曲はスコアまで持っていても、バッハのミサやカンタータはディスクすら持ってないという人もいる。というか、自分も最近までそうだった。

マタイは、最近自宅で聴くことが増えてきたのだが、始終テキストとつき合わせているわけではないので、何となく流れてしまう。これは、一度生を聴かない限り、もう一生の間を続けて流れ続けるように思い、ようやく聴けた。

「受難曲」という名前が重苦しい連想を誘うし、実際にキリストの死へ向かう内容だから、軽いわけではない。でも、全曲を聴き終わって感じたのは、薄明りのような希望だった。

バッハは、神を信じていた。それは、教科書で「信仰心が強かった」と百回読んでもわからない。でも、この曲は祈りが希望につらなることを自然に感じる。 >> 初めての「マタイ」を鈴木雅明=BCJで聴く。の続きを読む



kazuo2322-img226x320-1421904884mippmx25372ロサンゼルス・フィルハーモニック演奏会

指揮: グスターボ・ドゥダメル

3月28日 18時 サントリーホール

マーラー:交響曲第6番 イ短調「悲劇的」

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マーラーの6番は、ベートーヴェンの「第九」に似たところがあるように思う。ということを言った人はいないと思うけど、僕にとってはそうなのだ。最初の三楽章が古典的に作られていて、終楽章が「破格」の構成になる。

その終楽章、特に最後の10分ほどで、それまでの積み重ねを台無しにするかのような、自己否定の音楽を表現できると、とんでもない演奏になることがある。

ただし、本質的には狂気の音楽ではないと思う。悲劇「的」という様式で書かれているが、決して絶望の音楽ではない。

そういう意味では、ドゥダメルの指揮は想像以上にマーラーのスコアをクッキリと浮き上がらせていて、余計なテンポの揺れはなく、無理なく無駄なく、すべての音がバランスよく響いてくる。

ロス・フィルは、弦は分厚く、管は華やかで、正直こんなに達者だとは思わなかった。いままで聞いた米国のオケの中でも、1,2を争うような印象だった。うまいというだけでなく、この長い曲をずっと「歌い続ける」実力があることに驚いた。

これだけのマーラーを、生演奏で聴けることはそうそうないと思う。

ただひとつ、自分にとって困ったのが、この曲を前回聴いたのが、アバドとルツェルン祝祭管弦楽団の来日公演だったことだった。 >> 桜の季節にドゥダメルとロス・フィルで聴く、隙のないマーラー。の続きを読む



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宝塚歌劇団 雪組公演

ミュージカル『ルパン三世 ―王妃の首飾りを追え!―』

原作/モンキー・パンチ脚本・演出/小柳 奈穂子

ファンタスティック・ショー 『ファンシー・ガイ!』

作・演出/三木 章雄

2015年2月24日 東京宝塚劇場

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宝塚歌劇の出し物にはいろいろと流れがある。完全な書き下ろしのオリジナル脚本、欧米のミュージカルの輸入物、そしてコミックやアニメの舞台化という感じだろうか。輸入物では「エリザベート」が人気で、コミックの舞台化は「ベルサイユのばら」が有名、というかこれは宝塚100年を代表する作品だと思う。

この原作も最近はゲームなどにも材を求めていて「逆転裁判」や「戦国BASARA」などが上演された。そして「ルパン三世」と来たわけだが、これは相当に手ごわい。人気原作ほど、粗探しをしたくなる人も多いから。

で、結論からいうととても楽しめた。冒頭は現代。マリーアントワネットが持っていた「王妃の首飾り」を盗もうとしたルパンと一行が、フランス革命前夜にタイムスリップ。ここで、王妃に出会うわけだが、当然彼女の運命は誰もが知るところ。

宝塚はベルばらを初めとして、フランス革命前後を舞台にしたものが近年とみに多いようだけど、マリーアントワネットは相当に「かわいい女」として描かれている。フランス革命はどういう視点で描くかによって、人物像も相当異なるけど、最近の宝塚はロベスピエールに悪役にまわってもらうようだ。 >> これぞ娯楽の王道。宝塚のルパン。の続きを読む



フィラデルフィア管弦楽団 演奏会
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
2014年6月3日 サントリーホール
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」

アンコール:J.S.バッハ/ストコフスキー:小フーガ ト短調

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遂げられない切ない思い、限りなく広がる妄想、そして飽きることのない狂喜。マーラーの音楽、とりわけ1番のシンフォニーはそうしたロマン性がプンプンと漂う。

といえば聞こえはいいが、要は「中二病」だ。そこには、収拾のつかない想いのかけらがとり散らかって、でもマーラーには相当の楽才があったからまとめることができたのだろう。

そういうわけで、この曲はどこか恥ずかしい。でも、だからこそ臆面もなく思い入れたっぷりに歌ってほしいのだが、一方ではビシッと決めないと、単に恥ずかしい曲になってしまう。

ゼネ=セガンとフィラデルフィアの演奏は、たっぷり感においては相当に素晴らしい。これは指揮者の力量によるところだろう。一方でフィナーレなどは畳みかけて決まったけれど、危ういシーンも多かった。

昨年の、サロネン/フィルハーモニアに比べると、音楽の「中二らしさ」ではよかったけど、アンサンブルではちょっと気になるところもあるかな、という感じだ。

ことに、弦楽器がデリケートな場面になるといろいろ気になる。三楽章など、コントラバスは相当厳しかったし、その後静かなところになるとどこかおどおどしたアンサンブルになる。

ゼネ=セガンは、そうした弦楽器に対して実に丁寧に、時には煽るかのように朗々と歌わせる。また管楽器の主体性を大切にして、伸び伸びと吹かせる音づくりだ。そして、思い切ってテンポを揺らす時は相当に、大胆。すすり泣くような弦に、誇らしげなブラスなど、正しい中二病満開だ。

もちろん、褒めているのだ。

アンコールは、ストコフスキーが編曲したバッハの小フーガ。ゼネ=セガンの、この楽団への思い入れがよく伝わるいい選曲だったと思う。

一曲目のジュピターも結構アクセントのハッキリした演奏で、これはこれで面白いと思った。モーツアルトの他の曲で同じようにできるかはともかく。

いずれにせよ、ゼネ=セガンは機会があれば何度でも聞いてみたい。音楽をぐつぐつと煮立てることについては、相当な腕前だと思う。



2014年4月9日 東京オペラシティ―

レイフ・オヴェ・アンスネス ピアノリサイタル

〈オール・ベートーヴェン・プログラム〉

ソナタ 第11番 変ロ長調 Op.22
ソナタ 第28番 イ長調 Op.101
創作主題による6つの変奏曲 ヘ長調 Op.34
ソナタ 第23番 ヘ短調「熱情」 Op.57

〈アンコール〉

ベートーヴェン:7つのバガテルより第1番

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第22番より第2楽章

シューベルト:楽興の時より第6番

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常にピアニストを追いかけているほど、このカテゴリーを聴きこんでいるわけではないが、アンスネスは数年前にFMで「展覧会の絵」を聴いて以来、ほとんどのディスクを持っている。

生演奏は、昨年フィルハーモニー管弦楽団の来日公演でベートーヴェンの第4協奏曲を聴いたのが初めてだったが、想像した以上に音がやわらかで美しかったことに驚いた。
アンスネスは、いまベートーヴェンを「弾き始めた」ピアニストである。つまり、録音やリサイタルで「世に問う」歳になった、という意味のことを本人も語っている。そして”THE BEETHOVEN JOURNEY”(ベートーヴェンの旅)というプロジェクトが動き始めているのだ。
そして、この日のリサイタルを聴いて「旅」の意味が、少し理解できた気がする。やたらと「決定版」を求める人や、ベートーヴェンに過度の神格性を求める人は、この夜に物足りなさを感じたかもしれない。

ただし、そういう人は自宅で昔のディスクを撫でていればいい。これは、あくまでも旅なのだ。ベートーヴェンの音楽を通じて、ベートーヴェンの心の軌跡を旅して、それを聴衆と共有しようという試み。 >> アンスネスの旅、ベートーヴェンの旅。の続きを読む