「という形になっております」的な言い回しで思うこと。
(2016年11月25日)

カテゴリ:世の中いろいろ
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先日区役所に用事があった。

「132番でお待ちの山本さま~」という言い回しが飛び交っている。

「136番のカードをお待ちのお客様~」と「正しい日本語」だと思ったら、合成音声だった。まあ、そういうものだろう。

旅先では、客商売ならではの謎の言い回しをよく聞く。先日泊まった旅館では、朝食の案内がいちいちこんな感じだった。

「こちらは湯葉となっておりまして、よろしければ火の方をつけさせていただきます」

ご飯も味噌汁も、すべてのものが「なっておりまして」、「おかわりの方」がいただけるそうだ。ありがたい。

そういえば、今春に京都の寺社で期間限定の特別公開を中心に回ったのけど、こういうところも、また独特だ。

「こちらは、人数を限らせていただき、お一人様ずつの入場という形になっております。靴はお脱ぎ頂くという形になっておりますので、ご協力の方をよろしくお願いします」古都がそうなんだから、もう仕方ない気もする。

「~という形」「~の方」「~になっております」という言い回しは、「正しくない」感じがするし、そう思う人も多いようだけど、多分これからなくなる気もしない。

それにしても、なんでこういう言い回しが増えてきたんだろう。

まず、共通するのは「婉曲」ということだ。「ご飯です。おかわりはいつでもお申し付けください」でいいんだけど、それじゃ何かが足りないと思うのだろう。

そして、大体が客商売で起きている。ということは、使っている方は、これが「敬語」の一種であり、ていねいな表現だと思っているんだろう。「させて頂きたいと思います」とおなじようなものか。

ただし気になることがさらにあって、こういう言い方はどこか「他人事」で、「腰が引けている」ように感じるのだ。

「この拝観方式は私が決めたわけじゃないんで、そういう『カタチ』なんだからよろしく」「朝から湯豆腐の子鍋というのも大袈裟と思うかもしれないけど、そう『なっております』からよろしく」

もちろん、話す側にそんな意図はないかもしれないけど、ていねい過ぎる言葉は話し手の主体をうやむやにするのだろう。

だから「腰が引けてはいけない場面」で、こういう言い方をしたらいかに妙かがわかるはずだ。たとえば、結婚式。人生の大きな節目で腰が引けていると、こんな感じになる。

「こちらの方がウェディングケーキになっておりまして、このあと新郎新婦による入刀という形になります」

ほら、もうこのカップルの前途が不安になるでしょう。本当に入刀して、後戻りできないけどいいの?という気持ちになる。

そして、国会の演説もこうなる。

「ただいまから所信表明演説となっておりますが、これは我が国の進路をしめすという形になりますので、まずは政策全般の方を述べさせて頂き…」

これは、ありそうだ。ちょっと怖いけど。

そういえば最近流行らないけれど、「文章読本」というのは、結構いろいろある。面白さでは井上ひさしだけど、谷崎潤一郎は「陰翳礼讃」と一冊になっていてお得感がある。そして、その辺りをバッサリとやった斎藤美奈子も相当すごい。