裏からあぶりだす戦後の中東。『イスラエル諜報機関暗殺作戦全史』
(2021年3月4日)

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COVID-19のワクチン接種がいち早く進んだ国の1つがイスラエルだった。これは国全体が「臨戦態勢」にあるのだろうな、と感じたけどやはり軍が前面に出て進めたようだ。

最近では先端技術の分野でも注目されるが、その背景もまた同様だろう。ちなみに作戦遂行のために重要な「ドローン」は90年代から登場していることも本書でわかる。

それにしても、この本のタイトルはちょっと矛盾しているようにも思う。「暗殺」でありながら、それが「全史」となるのであれば、それは周知の事実ということになる。

読んでいけばわかるのだけれど、暗殺というのは、全面的戦闘の代替手法としての、治安・軍事作戦と位置付けられている。そして、この本は「暗殺史」のようでありながら、戦後中東史をクッキリと浮き上がらせているのだ。

日本にとって、というか少なくても自分にとって中東の政治事情というのはどうしても「飲み込めきれない」感じがある。頭で理解していても、感覚的に遠い。子どもの頃にオイルショックがあり、その流れで教わった時も、先生が「これは難しい問題だ」と言っていたのを覚えている。

その後もカーターやクリントンによる仲介は知っているし、ガザ地区やゴラン高原、ヨルダン川西岸という単語もニュースでは山ほど耳にしているけど、その意味合いはどこかぼんやりしていた。

そういう中で、この本は裏から歴史をあぶりだしていくことで、表で起きていることが段々と理解できていくように書かれている。出てくる登場人物や事件などを検索しながら読むので時間はかかるのだけれど、それだけの価値はあると思う。

それでも、読んだ結果としては、やはり「難しい問題だ」としか言いようがない。

上巻はPLOが台頭する中での「組織対組織」の戦いという感じがするけれど、下巻でヒズボラやハマスが出てくると様相が変わってくる。彼らの自爆テロはイスラエルの人々を恐怖に陥れ、出口の見えない状況になっていく。

そして、それぞれの側で呆然とするくらい「普通の人々」の命が失われていることがわかる。

筆者はイスラエル最大の日刊紙の特派員である。冒頭で自分のことを「情報機関の行動に対して批判的だった」と書いているが、全体の筆致としては歴史を中立的に書こうとしていて、煽情的ではない。

だからこそ、歴史が浮き上がってくるように読めるのだ。

最終章のタイトル「みごとな戦術的成功、悲惨な戦略的失敗」は、この暗殺史を象徴している言葉かもしれない。個別のオペレーションがうまくいくほど、長期的には外交的失敗から国益の損失につながることもまた多いのだ。

戦後の中東で何が起きていたのか?を改めて知るための本としてお薦めできる。「難しい問題だ」ということと再確認するのもわるくない。