2016年05月アーカイブ

91sAzG8CKLL萩尾望都 『ポーの一族』  (小学館)

妻が恩田陸の小説を読んでいたのだが、惹句を読むと「超巨大台風のため封鎖された空港。別室に集められた11人の中に、テロ首謀者がいるというらしい」あ、これはどこか既視感があって、まさに「11人いる!」ではないか。

恩田陸は、萩尾望都からの影響を受けていると言っているが、萩尾望都の作品が他の作家に与えた影響は相当広範にわたっていると思う。

文庫版『ポーの一族』には、宝塚歌劇の小池修一郎や作家の宮部みゆきがエッセイを寄せているが、宮部は萩尾を「多くの後続の作家のエネルギー源」と書いている。コミックはもちろん、小説や映画や舞台、あるいはゲームまでその影響は広い。直接彼女の作品を知らなくても、さまざまなクリエイターを通して知らぬ間にその世界を感じていることも多いだろう。そういえば「11人いる!」というドラマもあった。宮藤官九郎の作品である。

というわけで休み中に『11人いる!』を読み、と初期の傑作群を読み返して、やはり嘆息してしまう。『ポーの一族』を連載している間に、『11人いる!』『トーマの心臓』と送り出すわけで、「才能が迸る」とはまさにこういうことだったのか。どれも20代の仕事だ。 >> 【GW本祭り】晴れた初夏の午後に、『ポーの一族』。の続きを読む



mweberマックス・ウェーバー 著 中山元(訳) 『職業としての政治』 日経BP社

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100年前の分析や批評が、いまでも通用する分野ってどのくらいあるのだろうか。

スポーツはまず無理だろうし、経済学も困難だろう。自然科学に至っては、話の前提が全く違っている。相対性理論は発表されていたが、重力波はもちろん、DNAも知られてない時代である。

ところが、政治をめぐる議論というのはちょっと趣が異なる。以前書いたマキャベリの『君主論』はいま読んでも頷くところが多いし、孔子や老子、あるいは古代ギリシャの議論も未だに通用する。

権力のあり方を巡るテーマの本質には普遍性が色濃い。恋愛を巡る心情もそうだが、両者ともある意味科学では説明しきれない側面がある。まあ、結局人がもっとも学べていない分野なのだろう。

この本は、1919年におこなわれた講演、つまり第一次大戦後の時代のものだ。政治家のあり方をめぐる課題は、現代においても十分に通用する。

日本はもちろん、混迷する欧州や大統領選で揺れる米国を重ねあわせて読むことができるし、ウェーバーが本質を見抜いていたことに驚く。

昨夏に、『プロテスタンティズムと資本主義の精神』について書いた時、想像以上の反響があったのだが、それだけ読みごたえがありつつ、洞察力に満ちた思想家であることを再認識した。

政治家に必要な資質を、「情熱・責任感・判断力」とキレよく述べつつ、その情熱は「不毛な興奮」ではないと釘を刺す。

一方で二種類の大罪があり、それは「仕事に献身しない姿勢」と「無責任さ」であり、虚栄への欲望のためにこの罪を犯す誘惑に駆られると述べる。

いわば、「100年コピペ」とでもいうべき、政治家のあるべき姿への洞察が語られているのだ。 >> 【GW本祭り】100年経っても色褪せないのは、いいことなのか、それとも…『職業としての政治』の続きを読む



51Q6ZY8VziL._SX354_BO1,204,203,200_米澤穂信  『折れた竜骨』 (東京創元社)

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米澤穂信氏の作品が、ミステリー小説の人気ランキングの上位常連、というか言わば“V2”を達成するなど人気になってる。週刊文春や「このミス」などの年末恒例の投票で、一昨年は『満願』、そして昨年は『王とサーカス』が1位になった。

『満願』は短編集で、舞台は日本の日常的なシーンである。そこに隠された人間模様が伏線になり、事件が起きて謎が明かされる。どこか連城三紀彦を連想させるが、同じような感想を持った人は多かったようだ。

『王とサーカス』は、カトマンズを舞台にした作品で、21世紀初頭に起きたネパール王室殺人事件を題材にしている。主人公は元新聞記者のライターで、騒動のさなかに別の事件に出くわすことになる。

個人的な感想を言うと「悪くはない」という感じだろうか。一年間にあれだけの作品が発刊される中でのトップなのかと思うと、少々複雑だ。

まあ、横山秀夫の『64』も、冗長さだけが鼻について全く良いと思わなかった。なんか評判の料理屋に連れて行ってもらって、適当に相槌打ちながら食べているような感じだ。本でも料理でも、世間の好みとずれていることは多々あって、それで何の不自由もないから別にいいんだけど。 >> 【GW本祭り】『王とサーカス』に?な人には、『折れた竜骨』をぜひ。の続きを読む