日本医師会の言葉が心に響かないのはなぜだろう。
(2021年1月14日)

カテゴリ:世の中いろいろ

最近の感染状況をめぐるニュースを聞いていると、「事実」がわからないと思います。最も気になるのは「医療崩壊」という言葉が定義もなしに独り歩きしていることでしょうか。

1月13日に、中川日本医師会会長が「医療崩壊から医療壊滅」になる、と記者会見で述べているのを聞いて、不思議な感覚になりました。

刺激的な言葉を使われるのは自由ですが、「行動変容を促すためのコミュニケーション」という視点で見ると、疑問があります。医療については門外漢ですが、一人の人間としてどうもしっくりこないのです。

  • 日本医師会は科学者の集団ではないのでしょうか?

医師会会長の会見動画は全体を見ることができないのですが、日本医師会はプレスリリースを出しています。ここのPDFには「崩壊」と「壊滅」の定義もなされていますが、この資料を見る限り「日本の医療には課題がある」と読むのが普通だと思うのです。

この資料は昨年10月21日に厚生労働省で議論された資料から引用されてます。問題点は既にわかっていました。何らかの手段を講じなければ一部の病院に負担が偏ります。病床が多くてもコロナウィルス感染者を受けいられる民間病院が少ないのです。

しかし会見の内容を読むと「現在の医療体制を維持するためには国民が行動を変えなければならない」ということを強調しているように思います。しかし、医師会が科学者の集団ならば「日本の医療体制の課題」を客観的に説明したほうがいいと思います。
また、このように感染症が流行している時こそオンライン診療を推進することはとても重要だと思うのですが、医師会は関心がないのでしょうか?

  • そもそも日本の医療体制はぜい弱なのか?

毎朝NHKのBS1で欧州のニュースを見ているのですが、万単位で感染者が増加しています。医療現場のひっ迫は伝えられていますが、そもそも感染者の単位が2桁違うので理解できます。こうした情報は多くの人が知っているので、「なぜ日本では?」と思うのではないでしょうか。

そうした実情を解説する記事も段々と見られます。東京新聞のこちらの記事には「病床は世界最多、感染は欧米より少ないのに…なぜ医療逼迫?」というい見出しで解説されてます。
また首相会見において『米ブルームバーグ通信の記者が「米国のように1日で万単位の感染者が出る国と比べるとかなり水準は違うにもかかわらず、国内では医療崩壊の可能性が指摘されている」として、首相の考えを聞いた』と書かれてます。首相は「国によって医療提供体制の状況や医療に対しての考え方は違う。比べることはなかなか難しい」と言ったようです。別に正確に比べなくても、日本の医療システムの特徴を説明することは必要だと思います。

  • なぜNHKも「医療構造」を深く分析して報道しないのか?

民間放送があちらこちらからコメンテーターを読んで煽情的な番組作りをするのは、まあ「そんなものだろう」と割り引けるのですが、気になるのはNHKですらこうした「医療の構造」をきちんと追っていないということです。

逆L画面にして「百貨店の閉店時間繰り上げ」などの情報を流すよりも、こういう時こそきちんとした調査報道ができるのはNHKくらいだと思っていました。医師会や政府・自治体が説明できないのであれば、国際比較などを通じて日本の医療システムをきちんと解説すればいいのではないでしょうか。

もちろん医療システムをすぐに改善できないことはわかります。しかし、実情をていねいに説明して他の先進国より「ぜい弱」であれば、そう説明したほうが納得できるし、行動変容も起きやすいのではないでしょうか。それをていねいにしないで、「崩壊」「壊滅」という言葉を繰り返すのが医者の役目でしょうか。
私たちは相当な不自由を強いられています。そういう時に「言葉を尽くす」のは科学に携わる人の役目だと思います。少なくても尾身茂氏はそのように話されていると思います。

医者の仕事は、人々の気持ちを安心させることだと思いますが、それは素人の感覚なのでしょうか。いろいろと疑問は尽きません。