フリーの花道④土壇場の覚悟
(2012年2月23日)

カテゴリ:マーケティング

フリーランスになって、というよりなる前から気になっていたのは健康のことだった。もちろ大病も怖いが、「風邪で仕事に穴をあける」みたいなことだって、会社員より遥かに気を使うことになる。
仮に一日研修の講師をおこなう日に、インフルエンザになったらどうなるか。そのために全国各地から来ている人もいるのに「自習」とかで済むわけがない。想像するだけでゾッとして体に悪そうなので、想像もしないことにした。
そういうわけで、手洗いとうがい、それに睡眠という基本は風邪予防の基本として有効であることは、とりあえずこの10年くらいの経験から推奨したいと思う。
ところが、どうにも避けがたいことがあって、それは家族に不幸があった時のことである。これこそ、あまり想像したくもないわけだが、昨年の春先に父の余命が半年あまりであることを医師から告げられて、にわかに現実問題となってしまった。
こういう時は冷静さを欠くので、とりあえず非現実的なケースしか思い出さない。たしかバーンスタインが奥さんを亡くした時に日本公演をキャンセルしたことがあったなあ、とか。
だから、どうなるというのやら。
現在のクライアントに、あらかじめ挨拶をしておくことはしたが、「万が一の場合は」を前提にして話すわけにもいかない。知り合いに、こうしたケースでどうしたかを尋ねたが、これといった解があるわけでもなかった。


九月の早朝に病院から電話があり、どうやら危険な状態になったことを告げられた。そして、その日は午前中に一件のセミナー、午後に一件のプロジェクト報告会があった。どちらも僕がフルに話すことになっている。
ずっと病院にいても、どうなるわけでもないので、仕事に行くことにした。これについては、母や妹の理解があったので助かった。とは言え、やはり気にはなる。しかし、話し始めれば、いつものように携帯のスイッチは切った。
午前の仕事が終わって、病院に連絡した。予断を許さない状態であり、早々と葬儀社の候補の名を聞くことになった。六本木で、ランチを食べながらパソコンを開ける。そして、葬儀社のホームページなどを見ながら、コーヒーを飲んだことを覚えている。
次の仕事は渋谷だった。タクシーの中で、家族と連絡をとる。
どちらのクライアントにも、まったく状況は伝えなかった。無事に、約束を果たして病院に向かったら、かなり厳しい状態だったが、まだ命はつながっていた。
父が他界したのは、その日の夜だった。
そして、その後何日かは、特に外せない仕事はなかったので、セレモニーに専念できた。
会社であれば、忌引休暇という制度がある。そして制度の有無以上に、お互いがカバーすることができる。
「まったく後がない」という状況をフリーは常に覚悟しておかなくてはならない。いくら手を洗ってうがいをしても、防ぎきれない「土壇場」は必ずやってくるのである。