「火花」の蔵書数から見える公立図書館の課題。
(2015年11月11日)

カテゴリ:マーケティング

公立図書館を巡っていろんな問題が出てきている。

1つはTSUTAYAに関することで、選書への疑問が出てきて小牧では住民投票まで行われたりした。メディアなどを見ていると、批判が多いようで、住民投票でも白紙撤回のようだ。ただ、ここに来て「TSUTAYAバッシング」じゃないか?という疑問も呈されている。

実際に武雄市では来館者は増加したし、それまでの図書館に「読みたい本がない」という声が寄せられていたのだから、一定の成果はあったはずだ。ただ「読みたい本」に応えればいいのか?という気もする。

一方で、出版社が「新刊本を一定期間貸し出さないように」という要請をおこなうという動きもあるらしい。図書館のせいで新刊が売れない、という理由らしい。

僕は仕事の専門書から小説まで相当の蔵書があり、家では収まりきらずにレンタルルームに3つの棚を置いている。これでも昨年に相当手放して、5つの棚のルームから引っ越したのだ。駐車場を借りられるくらいのコストがそれでもかかる。

自分でも本を書いているし、心情的にもできるだけ買うようにしてた。ただ小説は電子書籍に切り替えても、このまま行くとまたパンクするのは目に見えている。

こうなると、「調べもの」的な場合は図書館を利用する。仕事関連の本は購入して手元におくが、趣味などについてはある程度借りた上で購入を判断する。コンサートで聞く予定の珍しい作曲家についての伝記とか、いきなり読んでも分からない自然科学の本が多い。

都内の2つの区の図書館にそれぞれ10分くらいで歩いて行けるので、検索して予約してから行くのだが、この2つの区でも選書が異なるときがある。

片方の区では、一定金額を超える学術書がないことが多い。論文の一部とかを読みたいような大部のものほど、価格が高くなるわけだがそれがない。

その一方で、公立図書館は同じ本を何冊も所有している。そして、これについては出版社の言い分も理解できる。みんなが「読みたい本」というユーザーのニーズに答えるとどうなるか。

一部で話題になったが、又吉直樹の「火花」予約人数と蔵書数がわかりやすいだろう。

僕が登録しているところでは、一つが832人の予約で蔵書数が18冊。もう一つは1657人で蔵書数は29冊。つまり、1ッ冊あたり40~50人くらいが待っていることになる。

気になるのは予約人数よりも、蔵書数だ。

僕が疑問に思うのはこの辺りで、ベストセラーを複数置くよりも、一冊でも「いろんな本」をおくのは公立図書館の役目なんじゃないだろうか。ちなみに10年くらい前に売れた小説を調べるとすぐに借りられるが、それもまだ10冊以上蔵書になっている。つまり短期の要望に応えても、長期的には死蔵ということになってしまう。

「ユーザーのニーズ」はマーケティングの基本だ。でも公立図書館が、同じ本を何十冊もそろえてそれを1年以上待って届けるというのは、ちょっと妙ではないか?そして出版社も貸出制限を要請するより「複数購入」を改めてもらうことを求めたほうがいいと思う。その方が税金の使われ方としても、理解されやすいのではないか。

選書というと、郷土資料の廃棄とか妙な本の購入が話題になっているが、この「同一本複数購入」と、それが蔵書の広がりに影響している辺りが公立図書館の最大の問題じゃないかと思っている。