「自殺稀少地域」の研究は、職場でもヒントになると思う。「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」
(2016年10月26日)

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91ykt5b3ahl先日、過労による自死の事件を受けて、こんな記事を書いた。その際に紹介した本が気になった方が多いようだったので改めて内容について書いておこうと思う。

『その島のひとたちは、ひとの話をきかない――精神科医、「自殺稀少地域」を行く』(青土社)は、精神科医の森川すいめい氏によって書かれた本だ。スタイルとしてはある種のノンフィクションと言っていいだろう。

このタイトルで、まず気になるのが「自殺稀少地域」という言葉だ。そういうエリアがあるのか?と思う方も多いだろう。

自殺率については、都道府県による差があることは知られている。ただし「稀少地域」という視点は新鮮だ。これは、岡檀氏の「生き心地の良い町」(講談社)による研究で注目を浴びた。これは徳島県の旧海部町(現在は海陽町)というエリアの自殺率の低さに着目して、その特徴を他地域と比較研究した本だ。

この本は4年間の現地調査をもとにしており、アカデミックな世界でも評価された。一方で森川氏の本は、旧海部町の他にも幾つかの自殺稀少地域を歩いているが、体験をもとにしたエッセイ風の仕立てになっている。

こう書くと印象中心のように感じられるかもしれないが、岡氏の著作と併読することで、森川氏の観察眼の確かさが浮かび上がってくる。

そういう意味で、この2冊をセットで読むことで「自殺稀少」への手掛かりがより理解できると思う。

そして、森川氏は「対話する力」に着目して、「7つの原則」を提唱するのだが、これは自殺を防ぐための手掛かりに限らず、「いい世の中」への手掛かりとして普遍性があると思う。518ypndkjl

また、会社に属していて、「人」の問題でいろいろと考えているならば、「あっ」と感じるのではないだろうか。

7つの原則は以下の通りだ。

  1.  即時に助ける
  2.  ソーシャルネットワークの見方
  3.  柔軟かつ機動的に
  4.  責任の所在の明確化
  5.  心理的なつながりの連続性
  6.  不確かさに耐える/寛容
  7.  対話主義

自殺稀少地域の研究は、そもそも「生きやすさ」の研究だと感じるし、それは多くの人にとって気になることだろう。ことにマネジメントに関わる人にとっては大切なヒントになるのではないか。この7つの原則が気になったら、ぜひ一読することをお薦めしたい。