意識高い大人のお子様ランチ?『ティール組織』【書評】
(2018年2月16日)

カテゴリ:キャリアのことも

もう20年ほど前であるが、とある経営者から「お題」を授かった。

それは、組織に関するもので、彼の独自の発想を具現化できないかというものだった。

こんな感じの話だ。

「組織っていうのは、いま野球型からサッカー型になろうとしている。いちいちプレイごとにサインを出すのではなくて、いったんゲームが始まれば選手が主体的に動く。つまりマネージャーは戦略に徹すればいい」

まあ、ここまではわかるが次が難しかった。

「でも、究極の組織はテニスのダブルスみたいなもんじゃないか。高度なプロ同士のチームならマネージャーは不要になる」

まあ、ジャムセッションや室内楽もそんな感じだろう。ただ、これを実際の組織に落とし込むのは相当難しい。というわけで、いろいろシミュレーションしたものの実現するには相当根っこから会社を変える必要があった。

まだ、僕は30代の会社員だったけれど、この頃からピラミッド組織へのアンチテーゼのようなものは増えてきた。海外からもそうした話は入って来て、指揮者のいないオーケストラとかがもてはやされた。

なんでこんな話を思い出したかというと『ティール組織』という本が話題になっていたからだ。この本の世評は高いようだけど、僕の周辺ではちょっと反応が違う。「既視感があるよな」という感じで、人によっては相当にけなしている。

これは、所属組織や年齢の問題ではない。実際に現場の組織改革に取り組んだ経験のある人は、この本について覚めている。

たしかにフレームには説得力がある。組織の進化をカラーチャートのようにして、鴨の羽色に喩えるあたりのテクニックはさすがだ。同じ素材も、ソースと調味料で最新のレシピになるということだろう。

こういう本が出ると、意識の高い大人は喜ぶ。しかし、それは口当たりのいいお子様ランチのようなところがある。そうだよね、おいしいね。今の組織は、ちがうよね。

そうやって、この本のことをわかってから、次の一歩を踏み出せるかどうか。ゼロから組織を作る際には、参考になるかもしれないけれど、実行の困難さは相当なものだろう。

これは現場経験がないとわかりにくいかもしれない。ただし、この理論を喜んで持ってくるようなコンサルタントが来たら、とりあえず眉に唾でもつけてから拝聴されることをお薦めする。

御高説ごもっとも、さて明日から私たちはどうすればいいのですか?

この本の言っていることが間違っているとかとんでもないという話ではない。地に足のつかない組織論を振り回す人は昔からいて、そういう人は周期的に現れる。

組織の現場は、心地よい味付けの理論には冷静になった方がいい。そこにある苦さや雑味を覆い隠せば、それは「お子様ランチ」になるということだ。

こうしたピラミッドへのアンチテーゼは、今までに幾度となく出てきたが、それでもピラミッド的な組織はまだ多い。その理由は敢えて書かないが、これもまた現場で格闘すればすぐにわかる話である。紹介されている変革事例が適応できるかどうかは、熟考した方がいいだろう。

そういう意味で、問題提起としてはユニークな本だ。しかし、採用や研修などの実例など、実践への応用を読むと、ちょっと「膝カックン」な脱力感もある。

ああいうのは、パンダだけで十分だとも思っちゃうのであった。