数字に見る「フジテレビ騒動」の本質。その3
(2011年9月1日)

カテゴリ:マーケティング
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さて、制作費削減をめぐる厳しい状況を見てみたが、売り上げや利益はどうなっているのだろう。まずは各局の売上を2009年度と2010年度で眺めてみよう。参照はこちらのページがわかりやすい。
2009年度は、ご記憶のように前代未聞の経済後退だったので、各局ともかなりのマイナスだった。2010年度はどうだったかというと、フジテレビとテレビ朝日が微増で、あとは微減だったということがわかる。このグラフを見ている分には各局ともあまり違いがないように思えるが、営業利益を見ると「差」が明快になる。
まず、フジテレビの伸び率が高いことに目が行く。98億から222億と2倍以上の伸長だ。ただし絶対額については、NTVの方が高い。一般的に言って、営業利益は「本業の実力」である。この数字に執着すること自体は経営者としては「普通の感覚」だとは思う。
つまり各局とも「減収増益」あるいは「増収率<増益率」(除テレビ東京)という状態の、10年度決算だ。これはステイクホルダーによって評価、というか損得のようなものが異なってくる。原価を削ってでも利益を確保すれば株主からの評価は高いだろう。しかし、社員にとってはひたすら忍耐を要求されるし、もっともしわ寄せを食らうのは当然発注先の下請け企業なのだ。

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そして、フジテレビは売上では1位であるものの、営業利益では日本テレビの後塵を拝している。そして、日本テレビが利益を「キッチリ」と伸ばしているのに対して、フジテレビは「エイヤ!」という感じの伸ばし方であることが、グラフから直感的に理解できるだろう。売り上げに比して、利益を伸ばしているようなという時は、必ず社内外のどこかで「無理」が起きるのだ。放っておくとフジテレビは「収益力の低い企業」という評価になってしまうだろう。これはたしかに難しい局面ではある。
ただし、フジテレビのみでなくテレビ局に言えることなのだが、そもそも「減収→原価低減」という発想が本当に正しいのだろうか?


普通のメーカーが経済後退に直面したらどうするか?仮に10%需要が減ったら、生産を10%減らすことになる。それでも利益を出すために、「乾いた雑巾」を絞るように経費を削減し、さらに一層の原価低減を試みる。そういう努力で個々の製品の品質は確保されてきた。
ところが、テレビ局の場合番組の生産数を減らすわけではない。それに、さほど必死に雑巾を絞った形跡もない。そうなると、10%収入が減って、10%制作費を減らせば、その分コンテンツの質が薄まるだけ。
仮にメーカーが、同じようなことをやったら大変なことになる。「不況で10%部品を安くして品質も10%落ちる製品」が市場に出てくることになる。しかし、今のテレビで起きていることは、そういう珍妙な状況なのだ。
つまり「1日中番組を放送する」「営業利益を確保する」という使命のために「番組の質を落とす」という流れになり、それが「視聴者離れを加速」して広告収入の減少を生むという負の循環に陥っているのだ。
そして、こうした局面での「視聴率のためのなりふり構わぬ姿勢」がどの局でも見られる。そしてフジテレビは「必死度」が高くならざるを得ない状況にあるのだ。そうした姿勢を嗅ぎ取った一部の視聴者が反感を持ってきたことが、今回の騒動の背景にあるように思えてくる。(続く)