【本の話】江戸の空気感が漂う、コミック版「剣客商売」。
(2016年3月5日)

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51d1GOBPsnL小説のコミック化はいろいろとあるが、池波正太郎は結構多いのではないだろうか。

さいとう・たかをの作画によるコミックは見たことがある人も多いだろう。

昔ながらの中華料理屋で、漫画アクションなどと一緒に油がまみれているソフトカバーのイメージだろうか。あと、コンビニなどでも思いだしたように「傑作選」のようなものが売られている。

池波正太郎の作品は相当読んだが、コミックを買ったことはなかった。鬼平犯科帳もやはり、さいとうプロの作品なので、“あの人”のイメージが強い。ページをめくった途端に、悪党の眉間が撃ち抜かれているような気がして、どうも馴染めない。

そもそも、さいとうたかをの作画は西洋人を描くのに向いている気もする。人間の体が三次元で捉えられていて、どこかガッチリして、ミッチリとしている。

剣客商売もさいとうプロがコミック化しているが、そんな理由もあって何となく敬遠していた。ところが一昨月に訪れた奈良田の宿の本棚にあった「剣客商売」のコミックがなかなかいい。

作画は大島やすいちだが、画風は穏やかで違和感がない。というよりも、スッと世界に入っていける。調べてみると、さいとう・たかをは1998年から翌年にかけての連載で新刊5巻。大島やすいちは2008年からの連載で23巻まで出ている。どちらもリイド社だ。

この大島版は、困ったことにkindleでも読める。何が困るって、するする読めるのでズイズイとダウンロードして止まらない。じゃあ読めばいいのだろうけど、少しずつ読みたいので悩ましい。しかも、コミックで読み直していると、小説を再読したくなる。

仕事上いろいろ読まねばならない本もあるし、読みたい新刊もたまってしまうのに、そんなに剣客商売まみれでもいいのか。

そんな悩みはあるのだが、このコミックは小説とは別の魅力を引き出した稀有な例だろう。秋山父子を初めとしてキャラクターが自然に描かれていて、いきいきとしている。江戸の街並みや、彼らの住処なども自然だ。よく広尾辺りの草叢が決闘の舞台になるが、そんな情景の空気感も上手に描かれている。

小説を読んだ人にとっても面白いのはもちろんだし、初めての人がコミックから入るのもありだろう。

週末の午後に、のんびりと江戸の世界に浸るにはなかなかのシリーズだとおもう。