メディアが正論を唱え、そして正義は遠ざかる。
(2016年3月14日)

カテゴリ:世の中いろいろ
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ドイツの地方選挙がおこなわれた。州にもよるけれど、メルケル首相のCDUは退潮で、いわゆる「反難民」の右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)が伸長したという。

米国では、トランプと反トランプが、文字通り「激突」状態になってきた。

また、ポーランドでは昨秋に政権をとった「法と正義」という右派政党が憲法裁判所を制御しようとしている。

明らかに、何かが起きている。それを極右的勢力の台頭とか反リベラルなどという評するのはやさしい。ただし、一つ明らかなことがある。

それは、一定以上の人々が支持しているという事実だ。

そして、もう一つの事実があって、それは主流のマスメディアの論調とは逆ということだ。

米タイム誌は2015年の「今年の人」に、ドイツのメルケル首相を選んだ。

トランプについては、米国のワシントン・ポストが「トランプ絶対阻止」という異例の論説を出した。エコノミストなども、強く批判している。

しかし、支持者はいる。

トランプの支持拡大などは、多くの人にとって「想像もできなかった事態」ではあるが、それはマスメディアが想像できていなかった、ということだろう。彼らの常識の外に、多くの人がいて、メディアはその波を感じることができなかった。

似たようなことは日本でもあった。2014年の都知事選で田母神俊雄氏が60万以上の得票を記録した時も、メディアは結構慌てていた。

新聞がトランプを批判するほど、支持者は闘志を燃やすだろう。ことにワシントンという地名自体が米国のローカルでは嫌悪の対象なのだ。そして、今後もトランプは既成の有力メディアから批判され続けるだろうが、それは支持者の結束を高めることになると思う。

トランプに限らず、極端な政策を支持する層は社会からの疎外を恐れていない。マスメディア全盛の時代は、メディアで形成される空気の外にいることが不安だった。しかし、いまや「同志」があちらこちらにいることがわかった。

それは、マーケティングの世界ではいち早く起きていたことだし、政治の世界にも当然のように波及していく。

そうした彼らにとって、最大の敵は既存の権威と権力だ。マスメディアやそこで発言する知識人がつくってきた規範が、最大の嫌悪対象になっているのだろう。

メディアは巨大化するにしたがって、どんどん人々から遠ざかって行った。そして、高い城を築いて、上から説法をしていたようなものだった。いま、その城の足元から火があがっている。

トランプなど極端な勢力を嫌う人も、その城が燃えるのは「まあ、仕方ない」と思っている可能性がある。そういう構造を理解しないまま、「反知性主義」とか言っていた日本の知識人も、まあ似たようなものかもしれない。

高い城からの正論が、本当の正義を遠ざけている。そして、城砦を破壊するようなゲリラ戦は、結構人気を博してきたストーリーなのだ。