広告ビジネスの「器量」が問われる。『CMを科学する』
(2016年4月15日)

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昨日のつづき。

「CMを科学する」で紹介されている最新のテクノロジーを組み合わせることは、マーケティングや広告の世界に大きな影響を及ぼしていくと思う。その流れについて簡単にまとめておこう。

まず広告主企業だが、宣伝担当はもちろん経営レベルでも再度CMのあり方を見直す機会になるかもしれない。広告費は企業の利益水準によって上下する。近年だとリーマンショックの後の減少は相当厳しかったが、それ以降は東日本大震災と除くと、それほど強い逆風もなかった。

しかし、景気には波があり、次の下り坂において「単純な出稿減」にするのか、「戦略的プランニングへの転換」にするのかで、その企業の明暗が分かれると思う。

あらゆる経費が費用対効果を問われる中で、「専門家」に任されていたのがこの分野だ。ただし、その専門家が最新のノウハウを駆使できないとなれば、どうなるだろうか。

効果のないマーケティングコストをかけているとすれば、それは経営の責任だし、株主から見ても問題だろう。そういう意味で、宣伝担当にはとどまらない話だと思う。

次に、クリエイターもその資質を問われるだろう。過去に比べれば、経済停滞の中でクリエイターも相当鍛えられたとは思っている。しかし、消費者心理が計測されて明らかになるにつれて、要求は一段と厳しくなるだろう。

クリエイターの求められることは単純で、アーチストとしての振る舞いを抑制することだ思う。僕はクリエイティブのすべてが数量化されるとは思っていないし、クリエイターには、アーチストの側面ももちろんあると思う。

だから「振る舞いを抑制する」という表現をした。「ちょっと特別な人」というポジションは時に有効でもあるが、ちょうど転換点になっているわけで、わかっている人にはむしろ好都合だろう。511gbwlh-TL

そして、メディアつまりテレビ局にとっては、実は追い風だと思う

なぜなら、本当にいいコンテンツを作っているのであれば、視聴実態が明らかになるのは、何も怖くない。むしろ大歓迎のはずだ。ここで紹介されている測定技法を見て「おもしろい!」と思うメディアが、これから伸びていくはずだ。

そう考えると、一番難しい判断を迫られるのは、広告代理店やリサーチ会社だろう。既存の視聴率データは、それが実際のおカネに変わる。つまり、通貨の役割を果たしていた。ただし、いまわかってきたことは「有効な通貨はまだたくさんある」ということなのである。

もちろん、ここにおいても結論は同じだ。何かが明らかになったら、新しい真実に従うことが長期的には最善なのだ。

今の景気動向を見ていると、広告費も横ばいから減少に転じる可能性がある。その時こそ、この本のノウハウが求められることになるだろう。