【2018年読んだ本から/6月】『ヒトごろし』で難儀したけど、萩尾望都はよかったよ。
(2018年12月20日)

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う~む、6月か。読んだ本が最も少なく9冊だったことに気づく。1ケタというのはこの月だけだった。­原因はあれだ。ヒトごろしだ。いや、別に誰かに殺されそうになったというわけではなく、京極夏彦『ヒとごろし』(新潮社)のせいだ。だって、1088ページだよ。硬い枕が好きなら、それもいいかもしれない。いや、厚さの話になってしまっているけど、これは何かというと「新撰組」の話なのだ。

土方歳三が「合法的に人殺したい」という理由でつくったのが新撰組という設定で、ひたすら土方目線で描かれる。まあ、青春のかけらもない権力抗争劇で、後半は100頁ずつかけて、一人ずつ土方に消されていくような展開。そして、沖田総司は「ドブネズミのような奴」と描写される土方以上のサイコパスで、竜馬はただのゴロツキ。

その直前に読んだ『悪霊』に通じるものもあるんだけど、何というかダメなベンチャー企業の、七転八倒物語にも見える。

新撰組を美しい話として大切にしたい人でなければ、楽しめると思うけど、いや疲れた。

お薦めのノンフィクションは、アニル・アナンサスワーミー『私はすでに死んでいる』(紀伊國屋書店)で、脳がうまく働かないことが人にどのような影響を及ぼすかが、多様な事例と共に語られる。

「自分の脳は死んでいる」と思いこむコタール症候群が、タイトルの由来だけど、そのほかにも離人症や自分を切断したくなる人など、人の意識の不可思議に迫る作品。

上田秀人『本懐』(光文社)は、いろいろな人の「切腹」を描いた話で、着眼点はいいと思うんだけど、読んでいるとお腹がムズムズしてくる。

レイフ・GW・ペーション『許されざる者』(創元推理文庫)は、北欧ミステリーらしい重厚な構造だけど、登場人物は軽めで読みやすい。ただ、何となく北欧の世界観に何となく飽きを感じている気もする。

本郷和人『壬申の乱と関ヶ原の戦い』(祥伝社新書)兵頭裕己『後醍醐天皇』(岩波新書)など、日本史×新書は相性がいいのかどんどん出てくる。前者は歴史をこれから学びたい人にはお薦めできる。

大澤真幸・稲垣久和『キリスト教と近代の迷宮』(春秋社)は、議論自体が迷宮に入っているようで、「宗教をアタマで理解するインテリ」の限界を感じた。

伊丹敬之『なぜ戦略の落とし穴にハマるのか』(日本経済新聞出版社)は、当たり前のようでいながら、日本企業の悪癖がきちんと整理されている。

そして、マンガ好きには興味深く読めるのが、萩尾望都『私の少女マンガ講義』(新潮社)だ。で、その講義内容もともかく質問の的確さに驚くんだけど、だって日本ではなく至りの大学での講義なのだ。なんか、読んでるとそんな感じがしないし、ある意味日本人には気づかない視点もあって、それが萩尾望都への優れた批評のなっているという驚き。

宝塚上演もあり、昨年は『ポーの一族』を再読して、勢いで限定BOXとか買ってしまったけど、やはり天才は天才で、しかも彼女の場合滲み出る人間性にも魅力がある。世の中には、すごい人がいるんだなあ。